研究課題/領域番号 |
20K15424
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
反田 直之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (10816292)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 栄養輸送 / 食害 / シロイヌナズナ / トライコーム / ホウ素 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
毛状突起でのホウ素輸送が食害防御において機能しているという仮説を検証するため、野生型株と毛状突起特異的に発現するホウ素輸送体(BOR5)の変異株の個体間でモンシロチョウ幼虫による摂食の嗜好性の比較実験の条件検討を行った。モンシロチョウの若齢幼虫にシロイヌナズナを与え、経時的に体重を測定することによって幼虫の成長速度を評価し植物の食害に対する耐性の指標とした。コントロールとして野生型株と毛状突起を形成しない変異株を用いた実験の結果、実験開始時のモンシロチョウの齢数が揃っていることが決定的に重要であることが明らかになり、安定的に齢数の揃った幼虫を大量に取得するためのモンシロチョウの室内継代系の確立を行った。これによって、次年度の研究期間中に仮説検証のための本実験が可能になり、ホウ素の生物における未知の役割の検証が可能になった。一方、根の根毛/非根毛性細胞の輸送における役割の解明に関しては、単一の根毛/非根毛性細胞からホウ素を吸収させた場合の輸送経路を推定するための2次元拡散モデルの作成を行った。根毛/非根毛性細胞を含む各細胞種の幾何学的特性を任意に変更した根の構造モデルを作成するパッケージを作成した。これによって、細胞構造と輸送体の分布をもとに、単一の細胞から吸収された栄養がその後植物体内をどのように輸送されていくのかをシミュレーションすることが可能になった。さらに細胞構造や各種パラメータを変更してシミュレーションを行うことで、効率的な輸送に必要な因子の同定が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地上部毛状突起に発現するホウ素輸送体の機能検証については、これまでに実施した摂食実験の条件検討結果に基づき、研究期間内に予定していた本実験の実施が完了できる見込みである。根の根毛細胞・非根毛細胞の輸送における役割の解明については、任意の細胞構造を表現するための2次元拡散モデル作成し、今後取得する実験データを基にシミュレーションを実施することが可能な状態を確立した。計画全体を通して研究期間内に予定していた実験を完了できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
地上部毛状突起に発現するホウ素輸送体の機能検証については、実験規模を拡大して齢数の揃ったモンシロチョウ幼虫を多数確保し、bor5変異株や、異なるホウ素条件で栽培した植物を用いた本実験を行い、仮説の検証を行う。また、地上部の毛状突起表面、あるいは内部に存在するホウ素がどの程度外界に溶脱されるのかを、葉に触れさせた液滴中の元素含量を測定することで明らかにする。浸出液はICP-MSによる多元素同時解析(イオノーム解析)を行い、ホウ素に限らず複数元素の測定を行う。一方、根の根毛細胞・非根毛細胞の輸送における役割の解明については、蛍光色素の移行の顕微鏡観察を行い、根組織における物質輸送の細胞レベルでの理解を試みると主に、観察結果に基づいた輸送シミュレーションから、組織レベルでの輸送特性を規定する因子の同定とその生理学的な意義の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
現有施設の使用状況と設置可能場所の変化により、人工気象器一台の購入を見送った。設置可能場所の状況変化に合わせて次年度中の購入を計画している。また実験実施順序の変更に伴い、粗微動一体型マイクロマニピュレーター一台の購入を見送った。こちらも次年度中の購入を予定している。
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