研究課題/領域番号 |
20K15427
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高部 響介 筑波大学, 生命環境系, 助教 (60821907)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 不均一性 / 1細胞解析 / 画像解析 / 機械学習 / 自家蛍光 |
研究実績の概要 |
地球上の微生物の多くは集団(バイオフィルム)を形成し生活を営んでおり、微生物バイオフィルムは正負の両面において我々の生活に深く関わっているため、その集団の生態を深く理解することが重要である。バイオフィルム内では同一遺伝子型でさえ細胞ごとに遺伝子発現等に不均一性が生じることが知られており、集団内で役割分担(機能分化)が行われていると考えられている。しかしながら、従来の手法では2種類程度の細胞しか追跡することができなかったため、集団構築プロセスにおいて「いつ、どこで、どのような機能分化が生じるのか」といった基礎的な知見は依然蓄積されていない。さらに、そもそも微生物集団がどのように1細胞毎に集合しつつ複雑な3次元構造体を構築するのかについても詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、バイオフィルム構築プロセスの総合的な理解を目指し、ライブイメージング技術及び画像解析手法、機械学習的手法を組み合わせ、1細胞毎の時空間分布・機能性を経時的に追跡可能な新奇モニタリングシステムの構築を行う。 当該年度は、細胞の生理状態を反映する自家蛍光に着目し、細胞の自家蛍光と集団内で発揮している細胞機能の関係性、特に細胞集団を構築するのに重要な細胞外マトリクス産生細胞の自家蛍光的特徴を調べた。その結果、細胞外マトリクス産生細胞の自家蛍光は集団内の他の細胞と異なることが明らかになった。このことは、ボトルネックであった従来の遺伝子工学的手法による蛍光標識処理を必要とせず、自家蛍光によって機能性細胞の追跡が可能であることを示唆している。 さらに、バイオフィルム研究のモデル細菌である緑膿菌の集団構築プロセスにおける個々の細胞の幾何学的パラメータを定量的に調べた。その結果、個々の細胞はある方向性をもって徐々に積み重なることによって3次元的な構造体を構築するという詳細な構築プロセスの解明に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和三年度は、集団内の個々の細胞の自家蛍光的特徴と発揮している機能性との関係性を明らかにするために、自家蛍光情報の取得と機能性マーカーを組み合わせた観察系の実現を予定していたが、予定通りに集団構築に重要な機能性細胞の自家蛍光的特徴を特定し、他の細胞との違いを明らかにすることができた。同様に様々な機能性細胞マーカーを利用することで、複数種の機能性細胞の追跡システムの構築を目指す。 一方で、当該年度はさらなる構築プロセスの解明を目指し、前年度に構築したバイオフィルム内の個々の細胞領域を認識するための画像解析手法を改良し、1細胞レベルでの時空間的分布及び細胞の詳細な形状パラメータを定量することに成功した。その結果、バイオフィルム研究におけるモデル細菌である緑膿菌の集団構築プロセス、特に嫌気脱窒過程で緑膿菌がどのように配向・配列しながら3次元的な構造体になるのかを解明することができた。 これらの成果から、おおむね予定通り進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果から、微生物集団内の個々の細胞の自家蛍光的特徴には不均一性が生じており、さらに、その不均一性は細胞毎に発揮している集団内での機能性(役割)と結びついていることが示唆された。今後は、引き続き自家蛍光と様々な機能性の関係性を明らかにしていく。得られた自家蛍光と機能性ラベルデータから、ディープラーニングによる機能性細胞分類モデルの構築を実現することで、集団内での役割分担の様子を直接観察するシステムの構築を目指す。さらに、画像解析手法の改良により、1細胞レベルの詳細な形状・配向・配列パラメータを同時に取得することが可能になった。これらの定量結果と機能性細胞の時空間分布変化等を統合し、より詳細なバイオフィルム構築プロセスの解明を目指す。まずは、当該年度に明らかとなった細胞外マトリクス産生細胞の分布とバイオフィルム構造の関係性について具体的に調べる。
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