研究課題/領域番号 |
20K15439
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
西山 辰也 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (10759541)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | actinorhodin / organocatalysts / streptomyces / oxidation / crystallization |
研究実績の概要 |
【目的】本研究では、未だ一般に認識されるに至っていない、触媒活性をもつ低分子化合物が普遍的に存在することを実証し、その生理・生態学的な役割に関する知見を収集する。すでに存在が明らかになっている複数の低分子触媒ならびにその細胞外タンパク質複合体は、いかなる生理的ならびに生態学的な役割を持っているのか。そして、低分子触媒の活性が本結合タンパク質の機能にいかに関与しているか、複合体を形成することでどのように変化するのか、を明らかにすることで、これまでに全く知られてこなかった生物が有する触媒の実態を明らかにする。 【結果】 ・低分子触媒の普遍性を実証するための探索:土壌から多くの菌を分離し、酸素濃度測定装置を用いた探索を行った結果、特に放線菌と思われる菌の培養上清中に酸素減少活性を見出すことに成功し、それら菌を複数得た。また、既知の有機触媒が結合するタンパク質の塩基配列をもとに行った相同性検索結果では、複数の遺伝子を発見した。それらの遺伝子を保有する菌を数株購入したところ、それらにはACTと同様の酸素濃度減少活性が存在した。 ・他の菌の増殖や群集構造に及ぼす影響の調査:有機触媒添加寒天培地と非添加培地とで菌を生育させ表現型に違いが見られる菌の探索を実施したところ、いくつかの菌で生育の促進、色素生成、形態の変化、抗菌活性の増大が見られた。 ・低分子触媒-結合タンパク質複合体の構造解析:有機触媒ACTとその結合タンパク質の結晶化を目指し、およそ3000通りの条件で検討を行ったが未だ結晶化には至っていない。そこで、アミノ酸配列から結合に関与すると思われるアミノ酸に変異を入れたタンパク質を調製し、ACTとの結合の有無を調べ、シミュレーションすることでACTとの結合の詳細を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、①低分子触媒の普遍性を実証するための探索、②他の菌の増殖や群集構造に及ぼす影響の調査、③低分子触媒-結合タンパク質複合体の構造解析、の3つをテーマに研究を行った。実験は 以下の成果が出ており、計画通りに進行している。①では土壌からの探索結果、L-アスコルビン酸に対する酸化活性を持つ菌を複数株発見した。一方で、還元反応を触媒する菌も同時に探索したものの、こちらは発見には至らなかった。また遺伝子情報から探索した結果においても、酸化活性を持つ菌の取得に成功した。②では低分子触媒を様々な濃度で添加した寒天培地を用意し、無添加の培地で生育した菌との比較を実施し、表現型に違いが見られる菌の探索を行った。1000株程度の土壌分離株を調査した結果、違いが見られた菌を複数株獲得した。③では低分子触媒ACTとの共結晶を目指し、条件をおよそ3000通り試したが結晶化には至れなかった。しかし、本タンパク質は組換えタンパク質のみでの結晶化には成功しているため、対策として考案していたアミノ酸置換の変異タンパク質での解析を行うべく、プラスミドの構築を行い、全候補アミノ酸の置換プラスミドの構築に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前項で述べたように、①得られた触媒活性をもつ菌から目的化合物を精製し、構造決定をするとともに、還元反応を触媒する菌の獲得を目指す。②では低分子触媒の有無で生育に違いが見られた菌のプロテオーム解析や遺伝子へのランダム変異処理を施し、原因となる遺伝子の同定を目指す。これらの解析を、得られた複数の菌に対し実行することで低分子触媒が菌に与える影響の全貌を捉えられると期待する。③低分子触媒ACTとその結合タンパク質の共結晶は得られていないが、ACTを含まない組換えタンパク質の結晶構造は解かれている。そこで、構築したプラスミドを用いてタンパク質の大量発現を目指すとともに、精製したタンパク質とACTとの結合をBiacoreで分析する。これにより、ACTとの結合に必要なアミノ酸残基を特定し、組換えタンパク質との情報と合わせることで、その結合の詳細なモデルをコンピュータ上で構築する。
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