生体中で触媒として機能する分子は、酵素とリボザイムの二つの高分子である。しかし申請者は、低分子にも触媒活性を示すものがあることを発見した。放線菌が生産する抗生物質として知られるアクチノロージンとグラナチシンは、それ自身は変化することなく、酸化反応を触媒する。さらに、これらはいずれもその生合成クラスター中の分泌タンパク質と結合し複合体として細胞外に存在していることが明らかになった。ここでは、低分子触媒の普遍性の実証と生理・生態学的役割を解明することを目的として、特に分泌性のタンパク質と結合する現象を手がかりにして、以下の3点を展開した。①活性と遺伝子情報の検索によって未知の低分子触媒を同定 ②すでに同定されている触媒分子が生産菌ならびに他の微生物の増殖や形質に及ぼす影響の調査 ③複合体の結晶構造解析による相互作用機序の解明。 ①の探索結果、希少放線菌や海洋放線菌にも遺伝子が分布していることが判明した。また、土壌由来の菌には強い触媒活性を有する菌が複数発見された。 ②では、土壌から採集したおよそ2000株の菌を対象に、終濃度1nMのグラナチシン添加条件と無添加条件とでの培養を行い、生育を比較した。その結果、色素生産、生育促進など8株で表現型の違いが観察された。これらの発現タンパク質をプロテオーム解析によって調べ、どのタンパク質が表現型の違いに起因するか調べる予定である。 ③の結果、組換えタンパク質のX線結晶構造解析により立体構造が解かれた。その構造には低分子触媒であるアクチノロージンがはまるポケットが確認され、結合に関わると推測されるアミノ酸が特定された。また、これらアミノ酸をアラニンに置換した変異タンパク質の発現にも成功した。今後は複合体の結晶化を目指すとともに、変異タンパク質との結合に関しても調査し、結合様式の詳細を明らかにする。
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