溶原性ファージは宿主細菌へ感染すると自らのゲノムを細胞内へ注入し、細菌ゲノムの内部へ組み込まれるタイプのウィルスである。枯草菌溶原性ファージSPβはインテグラーゼ sprAによる部位特異的組換え機構を利用して宿主ゲノムへ組み込まれる一方、sprA欠損を生じると相同組換えにより組み込まれることがこれまでに明らかにされている。本研究は部位特異的組換え機構に代わる相同組換えの組込み機構のメカニズムおよび生物学的意義を調べ、ファージゲノムの宿主ゲノムに対する組込みの全容を把握することを目的としている。本年度はSPβゲノムにコードされる相同組換え領域の遺伝子について調べ、相同組換え機構および相同領域が保持される生物学的意義について検討した。相同組換えを起こす領域に、toxin遺伝子を含むyokI-yokH領域、UV損傷修復遺伝子を含むuvrD-yolD-yolC領域、機能未知遺伝子のyomL-youB が存在しそれぞれ宿主ゲノムと90%以上の相同性を示す。これらの領域の欠損変異体を作製し調べたところ、yomL-youB 領域の欠損体おいてファージ粒子産生量の促進がみられた。さらにSPβは接合伝達遺伝因子ICEBs1にコードされるspbK遺伝子により不稔感染を引き起こすが、yomL-youBの欠損体では不稔感染がみられず溶菌斑が形成された。このことより、SPβにおける相同領域の保持は宿主ゲノムへの組込み機構として有用である一方、ファージ粒子形成能に対して抑制的な影響を及ぼしていることが示された。またyomL-youB領域がSPβに対するICEBs1の不稔感染機構に関与する可能性が示唆された。
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