研究実績の概要 |
腸内ファージは腸内細菌と多様な相互作用をしていることが予期されており、近年、腸内ファージの挙動が注目されている。近年、培養株において、細菌が放出する膜小胞にファージが内包されて伝播する可能性が見いだされた。そこで、本研究では、腸内環境において、膜小胞に内包されて伝播するファージが実際に存在しうるのか、また、どのような宿主細菌と相互作用するのかを明らかにすることを目的とした。 まず、マウス腸内に存在する膜小胞は、どのような細菌種が生産し、その膜小胞内にはファージが含まれうるのかを、ショットガンメタゲノム解析より明らかにすることとした。複数の系統のマウス糞便より膜小胞を回収し、DNAを抽出後、次世代シーケンサーを用いて膜小胞内包核酸の情報解析をした。その結果、糞便を構成する細菌の中でも、特定の細菌種が膜小胞を生産していることが明らかとなった。さらに、本手法で取得した膜小胞には多様なファージ遺伝子が含まれていることが明らかとなった。腸内のような環境中でも、ファージが膜小胞に内包されて伝播している可能性が示唆された。 また、膜小胞に含まれるファージが実際に感染能を有するのかを明らかにするため、まず、マウス糞便より、ファージ感染の宿主となりうる多様な嫌気性細菌を分離した。約2,000株の嫌気性腸内細菌のコロニーを取得し、細菌種を同定したところ、100種を超える細菌種の分離に成功した。その中でも、新規性の高い2株においては、新属新種として提唱するに至った。その他の新規性の高い細菌に関しても、今後、生理・生化学的性状を解析することで、新属新種として提唱する予定である。さらに、分離株の中から、ゲノム上にプロファージを有する株や、溶菌ファージの宿主となる株を取得することに成功した。今後、これらの株が生産する膜小胞とファージとの関係性について詳細に解析する予定である。
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