遺伝子性疾患の1つである鎌状赤血球症(SCD)の治療戦略は、出生直後に抑制したγ鎖の胎児型グロビン遺伝子を再活性化させることである。このグロビンスイッチング機構には、エピジェネティクス制御因子の関与が報告されているが、その詳細な制御機構は未だ不明である。本研究は、ヒストンメチル化酵素G9aに着目し、その再活性化機構の全貌を解明することを目指した。 本研究では独自に開発したG9a阻害剤を利用し、治療薬としてのPOC(Principle of concept)を獲得するため、正常およびSCDモデルマウスを用いたG9a阻害剤の活性評価を行った。G9a阻害剤を連続投与し、1週間後から有意なγグロビンの発現亢進が見られ、4週間後の血球成分ではヒストンH3K9ジメチル化レベルの減少が検出された。また、投与4週間後でも顕著な体重変化がなかったため、本薬剤はin vivoでも有効であることが示唆された。次に、G9a阻害におけるγグロビン再活性化制御機構を解明するため、γグロビンの主要な転写抑制因子BCL11A、ZBTB7Aとの関係性を評価した。ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2においてG9a阻害剤は両転写抑制因子の発現量に影響を与えなかった。一方で、G9a阻害剤はグロビン遺伝子座の特定領域で両転写抑制因子のリクルートを制御していることが明らかとなった。加えて、RNA-seq解析はG9a阻害によるγグロビン再活性化にはnon-coding RNAのBGLT3の発現制御が関与していることを明らかにした。以上のことより、G9aはγグロビン遺伝子の転写抑制因子のリクルートを制御し、BGLT3を介してγグロビン遺伝子の発現調節に関与していることが示唆された。
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