研究課題/領域番号 |
20K15457
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
桝谷 貴洋 京都大学, 農学研究科, 特定助教 (80803775)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 呼吸鎖複合体-I / 阻害剤 / 光親和性標識 / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
固形がん細胞の低酸素応答を指標とした抗がん剤シーズの探索により見出された低分子化合物IACS-010759(以下IACS)は、ミトコンドリア呼吸鎖のNADH-キノン酸化還元酵素(複合体-I)を標的とすることが知られている。2020年度はIACSの詳細な作用機序を調べるため、哺乳類ミトコンドリアを用いてIACSの複合体-I阻害活性の精査およびIACSの複合体-Iにおける結合部位の同定を目指した。 独自にIACSを合成し、ウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iに対する影響を調べた結果、IACSは複合体-Iの順反応(キノン還元)と比べて、逆反応(キノール酸化)をより低濃度(約1/10)で阻害することがわかった。既知阻害剤は順・逆両反応を同程度に阻害することを踏まえると、IACSは既知阻害剤とは異なる作用機序によって複合体-Iを阻害していることが示唆された。 また複合体-IにおけるIACSの結合部位の同定を目指し、IACSを鋳型とした光反応性プローブ分子IACS-PD1を合成した。IACS-PD1は光反応性基であるトリフルオロメチルジアジリンと、高感度検出が可能な検出基である125Iを有する。複合体-IにおけるIACS-PD1の標識部位を詳細に調べたところ、IACS-PD1は複合体-IのND1サブユニットのAsp199からLys262にかけての領域を標識していることがわかった。本標識部位はこれまでに報告のあるアミノキナゾリンやアセトゲニンなどの既知複合体-I阻害剤とは結合部位が異なることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、既知複合体-I阻害剤とは異なり、IACSは複合体-Iの順反応に比べて逆反応を強く阻害することを見出した。また、IACSを鋳型とした光反応性プローブ分子を合成し、IACSの結合部位を明らかにした。このような理由から、研究は概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリアでは酸化的リン酸化に不可避の副産物として活性酸素を発生させ、細胞のストレス応答やシグナル伝達のトリガーとなる。ミトコンドリアにおける活性酸素の主たる発生要因は、低酸素条件におけるキノールの蓄積に起因する複合体-Iの逆反応(キノール酸化反応)の過程で、セミキノンラジカル中間体から酸素分子に1電子移動するためであると考えられている。複合体-Iの既知阻害剤に比べてIACSが複合体-Iの逆反応をより強く阻害することから、複合体-Iに由来する活性酸素発生に対するIACSの影響が既知阻害剤とは異なることが予想される。そこで2021年度は、ミトコンドリアのエネルギー状態を様々に変化させた条件下で阻害剤を作用させ、複合体-Iから発生する活性酸素を定量し、IACSと既知阻害剤との差異を精査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、有機合成実験の比率が多かったため、生化学試験関係で計上した予算に余りが発生した。2021年度は実験における生化学実験の割合が増える予定なので、余剰の予算を含めて計画的に使用したい。
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