研究課題
固形がん細胞の低酸素応答を指標とした抗がん剤シーズの探索により見出された低分子化合物IACS-010759(以下IACS)は、ミトコンドリア呼吸鎖のNADH-キノン酸化還元酵素(複合体-I)を標的とすることが知られている。2021年度はIACSの詳細な作用機序を調べるため、哺乳類ミトコンドリアを用いてIACSの複合体-Iにおける結合部位の同定を目指した。IACSを鋳型とした光反応性プローブ分子IACS-PD1を合成した。IACS-PD1は光反応性基であるトリフルオロメチルジアジリンと、高感度検出が可能な検出基である125Iを有する。複合体-IにおけるIACS-PD1の標識部位を詳細に調べたところ、IACS-PD1は複合体-IのND1サブユニットのAsp199からLys262に含まれるアミノ酸残基を標識していることがわかった。本標識部位はこれまでに報告のあるアミノキナゾリンなどの既知複合体-I阻害剤とは結合部位が異なることを示している。これと並行して、IACSを含む様々な複合体-I阻害剤が結合するキノン結合ポケットの構造情報を生物有機化学的に精査することを目的として、複合体-Iの結晶構造等ではキノン結合ポケットの内部に位置するとされるアミノ酸残基と、ポケット外部に位置するアミノ酸残基が、独自に開発した二機能性クロスリンク剤によって直接クロスリンクされるかどうかを調べた。その結果、キノン結合ポケットの内と外に位置するとされる両アミノ酸残基がクロスリンクされることがわかった。以上の結果から、複合体-Iのキノン結合ポケットは結晶構造等で示されるような細長い洞窟様の構造ではなく、多様なリガンド分子を収容できる柔軟性に富んだ構造であることが示唆された。
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Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics
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