研究課題/領域番号 |
20K15459
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
若林 孝俊 神戸大学, 農学研究科, 助手 (20843858)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ストリゴラクトン / 植物ホルモン / 生合成 / 根寄生雑草 |
研究実績の概要 |
5-deoxystrigol(5DS)を生産するミヤコグサのLjCYP722C/DSDを大腸菌発現系にて組み換えタンパク質として発現させ、carlactonoic acid(CLA)を基質とした酵素反応を行った。その結果、組み換えLjCYP722C/DSDはCLAから5DSへの反応を触媒した。また、ベンサミアナタバコを用いたアグロインフィルトレーション法による一過的タンパク質発現システムにより、イネのOsCYP722Bの機能解析を行った。すなわち、CLAを合成するためのストリゴラクトン生合成遺伝子と、ターゲットであるOsCYP722Bを同時に発現させることで、タバコ葉内在のβ-カロテンを基質としてSLを合成させた。遺伝子を発現させたタバコ葉からストリゴラクトンを抽出し分析した結果、CLAより分子量が16増加した化合物が検出された。一方で、典型的ストリゴラクトンは検出されなかった。したがって、双子葉植物のCYP722Cサブファミリーは典型的ストリゴラクトン生合成に関与するが、単子葉植物のCYP722Bサブファミリーは異なる機能を有することが示唆された。 また、SlCYP722Cをノックアウトしたトマトでは、根分泌物から典型的ストリゴラクトンが検出されなくなるが、枝分かれは増加しないことを報告している。したがって枝分かれ抑制ホルモンは非典型的ストリゴラクトンに由来すると考えられたため、CLAを生理活性ストリゴラクトンに変換する酵素の探索を行った。CLAのメチル化体、methyl carlactonoate(MeCLA)は、in vitroでストリゴラクトン受容体と結合することが知られ、生理活性ストリゴラクトンの一つと考えられる。MeCLAを生産するシロイヌナズナにおいてCLAメチル基転移酵素を探索し、その結果、CLAを特異的にメチル化するCLAメチル基転移酵素を同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LjCYP722C/DSDの酵素機能は、以前に報告した、ミヤコグサと同じく5DSを生産するワタのGaCYP722Cの機能と同様であった。また、最近、ストリゴラクトン生合成遺伝子を発現させた大腸菌及び酵母の共培養系を用いた機能解析が報告され、LjCYP722C(DSD)やワイルドストロベリーのFvCYP722CがCLAから5DSへの変換する機能が示された(Wu et al., Sci. Adv. 7, eabh4047, 2021)。これらのことから、CYP722Cサブファミリーは双子葉植物において、CLAから典型的ストリゴラクトンへの変換を触媒する鍵酵素であることが、本研究を含め、あらためて実証された。また、単子葉植物のCYP722Bサブファミリーは典型的ストリゴラクトン生合成には関与しないと強く示唆された。これにより、新規生合成酵素遺伝子の探索のための道筋を示すことができた。さらに、CLAメチル基転移酵素の同定により、MeCLAの代謝物と考えられる枝分かれ抑制ホルモン生合成経路への知見を得ることができた。 以上のことから、全体として現在の進捗状況は、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
CLAのメチル化は枝分かれ抑制ホルモンの生合成に重要であり、シロイヌナズナにおけるCLAメチル基転移酵素の欠損は、過剰な枝分かれを引き起こす。枝分かれ抑制ホルモンの探索に向けて、CLAのメチル化が他の植物でも保存された機能であり、枝分かれ抑制活性に関与するかを確かめる。そこでまず、シロイヌナズナで同定されたCLAメチル基転移酵素について、様々な植物でそのホモログ機能を調べる。また、MeCLAはこれまでに報告されている非典型的ストリゴラクトンの生合成前駆体と考えられる。MeCLAの非典型的ストリゴラクトン生合成への重要性を理解するために、非典型的ストリゴラクトンを生産する植物のCLAメチル基転移酵素を同定した後、これを欠損させることで非典型的ストリゴラクトン生産能への影響を調べる。 また、BC環形成による典型的ストリゴラクトンの生成と、その後の構造多様化が生体内あるいは生態系内でどのような役割を果たしているかを解明することを目指して、新規典型的ストリゴラクトン生合成酵素の同定を行う。特に、5DSからstrigolへの変換を触媒する、ワタ(Gossypium hirsutum)のstrigol合成酵素の同定を行う。トランスクリプトーム解析から候補となる酵素遺伝子を選抜し、ベンサミアナタバコによる一過的タンパク質発現システムを用いて機能解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で予定していた学会への参加が取りやめとなった結果、予算執行が難しくなり次年度使用額が生じた。研究がおおむね順調に進んでいることから、さらに研究を展開するために必要な物品費として活用する計画である。
|