苔類に属する様々な種からみつかっている一方で、苔類以外の植物種からはみつかっていない『苔類にユニークな代謝産物』が植物体内でどのように作られ(生合成され)、どのような役割を担っているか(生理作用を有するか)を明らかにすることを目的として本研究課題では研究を進めた。 【作製した遺伝子破壊株における代謝産物の分析】ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を用いて作製した標的遺伝子のゼニゴケ破壊株を作製した。異なる段階を触媒すると予想される酵素遺伝子の破壊株を作製した。遺伝子破壊株の代謝物分析を行なったところ、初発段階を触媒すると予想される酵素遺伝子の破壊株で標的化合物の減少がみられた。その一方で、後半の段階を触媒すると予想される酵素遺伝子や未知の酵素遺伝子の遺伝子破壊株においては、予想していた標的化合物の減少がみられなかった。 【遺伝子のクローニング】ゼニゴケより、標的遺伝子をクローニングし大腸菌発現用のベクターに導入した。作製した発現用ベクターを用いて、タンパク質発現用の大腸菌の形質転換を行なった。同大腸菌を用いて発現、Niアフィニティーカラムによって発現したHisタグつき組換え酵素を用いて酵素活性を調べたところ、微弱ではあるが所望の酵素活性の検出に成功した。 【代謝産物の生合成誘導に関する研究】標的化合物の生合成研究を効率的に進めるため、様々な植物の二次代謝産物の誘導に使用されるジャスモン酸類に関する研究を行なった。これまで苔類におけるジャスモン酸の存在は不明確であった。重水素標識体のジャスモン酸メチルを処理したゼニゴケにおいて、非標識体のジャスモン酸量の増加することを明らかにした。この結果により、ゼニゴケがジャスモン酸を生合成するとともにジャスモン酸メチルに対する応答性を有することを明らかとした。
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