研究課題/領域番号 |
20K15463
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菊池 摩仁 北海道大学, 先端生命科学研究院, 博士研究員 (30788906)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 漢方 / 生薬 / Paneth細胞 / αディフェンシン / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
漢方で用いられる生薬は天然に存在する植物などのうち生体に対する効果効能を持つ産物の総称であり、様々な症状に対して伝統的に用いられ、食による健康維持を考える上で重要な候補であるが、生薬が症状を改善するメカニズムについては未だほとんど明らかとなっていない。本研究は生薬の効能をPaneth細胞の顆粒分泌を介した腸内環境制御という視点から明らかにすることを目的としている。具体的には、生薬がPaneth細胞に作用して顆粒分泌を誘導するか検討し、漢方で扱われる複数の生薬の中からαディフェンシン分泌誘導能を持つ生薬を見つけ出すことで、腸内環境改善と健康維持に有益な食材の発見や開発に貢献することを目指す。 2020年度は、便秘や下痢、腸炎、過敏性腸症候群など腸の症状に対して有効であるとされている漢方薬を小腸上皮細胞の3次元ex vivo培養系であるエンテロイドの内腔にマイクロインジェクションし、Paneth細胞の顆粒分泌を共焦点レーザー顕微鏡下で観察することで、それぞれのPaneth細胞顆粒分泌誘導能を評価した。その結果、顆粒分泌誘導能を示す漢方薬を複数種類スクリーニングすることによって抽出した。次に、それらの漢方薬を構成する生薬が顆粒分泌誘導能を持つか解析するために、生薬を単体でエンテロイド内腔にマイクロインジェクションし同様の評価を行ったところ、2種類の生薬でPaneth細胞の顆粒分泌誘導能を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
伝統的に効能があるとされてきた生薬の作用メカニズムについて、Paneth細胞の顆粒分泌を介した腸内環境制御という視点から明らかにしようとする研究はこれまで全くなされてこなかった。また、生薬は種類が多いため、これまではその一部について限定的な生体作用の解析しかなされていない。そのため、エンテロイドを用いたex vivo評価系を適用することで生薬のPaneth細胞顆粒分泌誘導能について網羅的な解析が可能であることが本研究の独創的な点である。 2020年度はこの評価系を実際に漢方薬に適用し、顆粒分泌誘導能を示す漢方薬を複数スクリーニングすることに成功している。さらに、それらの漢方薬を構成する生薬についても顆粒分泌評価を行い、うち2つが顆粒分泌誘導能を持つことを明らかにした。 研究代表者が設定した仮説は、生薬が小腸のPaneth細胞に作用しαディフェンシン分泌量を変化させ腸内細菌叢に影響を与えることで、腸内環境の恒常性を維持し、健康に有益な効果をもたらすというものである。2020年度までに得られた結果から、生薬の中にPaneth細胞に作用し顆粒分泌を促すことでαディフェンシン分泌量を増加させるものがあることを示し、仮説の一部を証明した。 In vivo動物試験を計画している2021年度に向けて、解析候補となる生薬を抽出した2020年度の進捗は十分であり、漢方で扱われる複数の生薬の中からαディフェンシン分泌誘導能を持つ生薬を見つけ出すという目的に向かって順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
エンテロイドを用いたex vivo評価系を適用することでPaneth細胞顆粒分泌誘導能を示す漢方薬を複数スクリーニングで抽出した。また、その漢方薬を構成する生薬についても同様の解析を行って顆粒分泌誘導能を持つことを明らかにした。 2021年度はex vivo評価系によってスクリーニングされたこれらの生薬についてin vivo動物試験を行い、実際に生体においてPaneth細胞顆粒分泌誘導能を示すか検討を行う。具体的には、解析候補である生薬をマウスに経口投与し、糞便中のαディフェンシン量を測定する。また、生薬の投与がPaneth細胞からのαディフェンシン分泌を誘導した場合、αディフェンシンの持つ選択的殺菌活性によって腸内細菌叢の組成が変化することが推測される。これを検証するため生薬投与マウスの糞便を用いて腸内細菌叢のメタゲノム解析を行う。さらに生薬投与によってαディフェンシン分泌が誘導されるのであれば同時にPaneth細胞におけるαディフェンシンの遺伝子発現も亢進している可能性が考えられる。これを検証するため生薬投与マウスの小腸組織をサンプルとした遺伝子発現解析を行う。最後に、生薬の投与はPaneth細胞の分泌機能のみならずその形態や上皮細胞の組成、小腸組織の構造にも影響を与える可能性が考えられる。これを検証するためヘマトキシリン・エオジン(HE)染色や免疫染色および電子顕微鏡観察による小腸組織やPaneth細胞の形態観察を予定している。 以上を通じて、Paneth細胞に作用する生薬が腸内環境制御に関わるメカニズムを解明し、腸内環境改善や健康維持に有益な食材の開発に貢献する。
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