研究課題/領域番号 |
20K15465
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
乙木 百合香 東北大学, 農学研究科, 助教 (90812834)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オキシリピン / 神経変性疾患 / 中性脂質 / リン脂質 / 多価不飽和脂肪酸 |
研究実績の概要 |
高齢化社会が進む現在、認知症などの神経変性疾患の予防は喫緊の課題であり、食品機能性成分による予防が国内外で盛んに検討されている。食品機能性成分の効果を評価するには、摂取した成分の生体内での存在形態と存在量を把握し、活性本体が何であるかを見極めることが極めて重要である。食品から摂取したドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の健康増進作用がよく知られているが、こういった多価不飽和脂肪酸の一部はオキシリピン(酸化脂肪酸)へと代謝され、脳において神経保護作用を発揮していると考えられている。従来オキシリピンは遊離型として存在し、種々の機能性を発揮していると考えられてきたが、申請者はこれまで脳中オキシリピンはその大半がエステル型オキシリピン(脂質に結合したオキシリピン)として存在していることや、これらが病変部において減少していることをいち早く明らかにしてきた。 しかし、エステル型オキシリピンの脳における機能解明はほとんどなされておらず、その理由として精密な分析法がなかったことが挙げられる。本研究では、申請者が開発したエステル型オキシリピンの網羅的解析、および標的エステル型オキシリピンを直接分析法を活用して、エステル型オキシリピンの存在形態とその生理活性本体、および生合成経路を明らかにする。本研究により、神経変性疾患などの発症メカニズムの解明やDHAやEPA摂取による疾患発症の予防に繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者はこれまでに、中性脂質と極性脂質由来のオキシリピンを網羅的に解析する方法を構築し、虚血モデルの脳において、中性脂質由来の一部のオキシリピンが減少していることを明らかにしてきた。 そこで令和2年度は、本知見をさらに深化するため、アルツハイマー病者の脳の解析を行った。その結果、健常者の脳と比較してアルツハイマー病者において中性脂質由来のオキシリピンのうちエポキシ体が主に減少していることが明らかとなった。そのため、脳中に多く存在している中性脂質であるコレステロールにエステル結合したエポキシ体をターゲットとして直接分析する方法の構築を試みた。まず標準品を合成し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析機を用いて各種パラメータを最適化することで、コレステロール型オエポキシ体の精密な分析法の構築を達成した。さらに本法により、マウスの脳において確かにコレステロール型エポキシ体が存在していることを初めて明らかにすることができた。エポキシ体は、脳において神経保護作用が知られており、こういった中性脂質にエステル結合することで、生理活性が変化する可能性が見出された。 現在、神経変性疾患の治療は薬剤をもってしてもなお難しい状態である。食品からのDHAなどを含む多価不飽和脂肪酸の摂取による神経変性疾患予防への期待は大きく、本研究の社会的意義と波及性は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、エステル型オキシリピンの分析対象化合物を拡張することで、分析法のさらなる発展を試みる。さらに、構築した方法を用いて、神経変性疾患モデル動物やヒト神経変性疾患の脳や血液などを分析することで、エステル型オキシリピンの存在形態を確証させ、その機能解明や発現機構の解明に繋げる。また、エステル型オキシリピンや遊離型オキシリピンの抗炎症作用や神経保護作用などの生理活性についても検討する。これにより、DHAやEPA由来の神経保護作用成分がどの分子なのか(エステル型なのか遊離型なのか)、もしくは個別の機能性を有するのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により、旅費出費が大幅に減ったため。また、研究自粛による制約があったため。令和2年度に予定していた実験のための物品購入費にあてる。
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