研究課題/領域番号 |
20K15472
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
本間 太郎 帝京大学, 薬学部, 講師 (30707930)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共役脂肪酸 / がん |
研究実績の概要 |
現在、日本人の死因として最も多くの割合を占めているのは悪性新生物(がん)である。がん予防が期待される食品成分の一つとして、「共役脂肪酸」が挙げられる。これまでの研究により、共役脂肪酸を含有する種子・海藻を新規に発見することに成功するとともに、当該海藻(海藻A)から得られた酵素液を使用することで共役脂肪酸を人工的に合成できる可能性を見出してきた。本研究課題では、これまでに発見した共役脂肪酸含有種子油の殺がん細胞効果を実際に検証するほか、海藻A由来酵素により非共役型の多価不飽和脂肪酸から共役脂肪酸を合成し、得られた共役脂肪酸の殺がん細胞効果についても検証することを目的としている。これまでの研究で、オミナエシ科植物であるCentranthus ruberとValeriana officinalisの種子油に共役トリエン型脂肪酸が含まれることを明らかとした。これらの種子油をケン化し、遊離脂肪酸の状態でヒト子宮頸がん(HeLa)細胞に添加した結果、コントロール群と比べて有意な細胞死が起こり、殺がん細胞効果が確認された。また、海藻Aから抽出した粗酵素液にα-リノレン酸を添加し一定時間インキュベートした結果、反応生成物について、共役テトラエン構造に特徴的な吸光度スペクトルが確認された。そこで2021年度は、α-リノレン酸を基質として海藻Aの粗酵素液により合成した反応生成物の構造決定を進めた。α-リノレン酸を含む反応生成物から目的物質を高速液体クロマトグラフィーにより分取し、NMR解析とマススペクトル測定を行った。その結果、当該反応生成物が共役テトラエン型脂肪酸であるパリナリン酸であると断定した。パリナリン酸をHeLa細胞に添加したところ、細胞生存率が低下していることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海藻からの共役脂肪酸合成酵素の精製を2021年度中に完了させる予定であったが、現在も目的酵素の同定を目指し精製を進めている段階である。 一方で、海藻から合成した共役脂肪酸の確保が順調に進んだため、合成した共役脂肪酸の構造決定を完了することができた。合成した共役脂肪酸の殺がん細胞効果も確認できているため、最終年度では、殺がん細胞効果のメカニズムを検証するとともに、共役脂肪酸合成酵素の精製を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までの研究で、α-リノレン酸を基質とした共役脂肪酸の合成に成功し、生成物の構造を決定するまでの流れを確立できた。生成物の殺がん細胞効果も確認できたため、今後は殺がん細胞効果の具体的なメカニズムを詳細に検討していく。また、基質としてα-リノレン酸以外にも様々な脂肪酸を使用して多種類の共役脂肪酸を合成することを試みる。以上により、得られた反応生成物の化学構造を特定するとともに、殺がん細胞効果に及ぼす影響の強さについて、脂肪酸の構造との関係にも着目しながら比較することで、有用な共役脂肪酸を探索する。さらに、将来的に実用化することを目指し、引き続き共役脂肪酸合成酵素の精製を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に研究発表できる件数が当初の予定より多くなったため、研究発表旅費を前倒し申請した。しかし、発表を予定していた学会が新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となったため、旅費を含む研究発表予算が前倒し申請した額を下回り、次年度使用額が生じた。当該予算は、2022年度の研究発表にて使用する。
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