研究実績の概要 |
現在、日本人の死因として最も多くの割合を占めているのは悪性新生物(がん)である。本研究では、がん予防が期待できる食品成分として、殺がん細胞効果を持つ共役脂肪酸に着目した。共役脂肪酸には共役二重結合の数や位置、さらには鎖長の違いなどから非常に多くの種類が存在しており、生理活性の強さもそれぞれ異なることが予想される。そこで、共役脂肪酸の構造の違いと殺がん細胞効果の強さの関係について明らかにする前段階として、様々な天然物を対象に共役脂肪酸含有天然物のスクリーニングを行い、多様な構造の共役脂肪酸を入手することを試みた。2020年度では、それぞれ異なる構造の共役脂肪酸を含有することを過去に発見しているCentranthus ruberとValeriana officinalisの種子油について、それぞれ殺がん細胞効果を持つことを確認し、2021年度は褐藻ウミウチワから抽出した粗酵素液を利用することで、α-リノレン酸から共役テトラエン型脂肪酸を合成できることを発見した。さらに、NMR, MSにより構造解析を進めた結果、合成した脂肪酸はパリナリン酸であることを突き止めた。褐藻ウミウチワに含まれる共役脂肪酸合成酵素のアミノ酸配列を明らかにすれば、当該酵素を人工的に合成し、将来的に実用化するための足掛かりとすることができる。そこで2022年度は、褐藻ウミウチワから抽出した粗酵素液を精製して共役脂肪酸合成酵素を得ることを目指し、研究を進めた。その結果、目的の酵素を同定するには至らなかったものの、超遠心分離、イオン交換クロマトグラフィーにより粗酵素液を分画し、タンパク質の精製を進めることができた。今後、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーを駆使して目的酵素を同定すれば、実用化に向けて大きく前進することが期待できると考えられた。
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