研究実績の概要 |
日本における骨粗鬆症患者数は現在約1,300万人と推定されており、その80%を女性が占めている。閉経期を迎えた女性については、エストロゲンの分泌量が急激な減少、血中の遊離脂肪酸やアディポネクチン(APN)、レプチンなど生理活性物質などの変動が報告されているが、それぞれの物質について破骨細胞分化への作用について解析した報告は少ない。本研究ではこれらの変動する物質が破骨細胞分化にどのような影響を与えるかを検討することを目的とした。 初年度の研究では、APNがLPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞分化マーカーMCP-1 mRNA発現を抑制すること、パルミチン酸(PA)がAPNによる抑制を解除する働きを持つことを見出した。さらにLPS誘導性MCP-1 mRNA発現がTLR4阻害剤TAK-242 で阻害されることからTLR4を介した事象であることが確認された。しかしながら新型コロナの感染拡大の影響で海外での、単体あるいは重合体APNの生産が停止したために同等の作用が証明されているAdipoRonを用いることにした。APNたんぱく質を用いた実験結果はAdipoRonを用いた場合でも違いは認められなかった。 他の炎症性疾患でも骨粗鬆症発症の際に脂肪酸組成が変動することが報告されている。そこで今年度の研究ではPAがAPNによるMPC-1発現抑制を解除する機構の解明を中心課題として実験を行い、PAがAPN受容体AdipoR1の発現を顕著に抑制することを見出した。PAはTLR4とTLR2に結合することが報告されている。そこでTLR2の阻害剤を添加したところPAによるAdipoR1の発現抑制は解除され、PAがTLR2を介してAdipoR1の発現を制御していることが明らかになった。 これらのことから栄養学的側面、あるいはTLRの阻害剤の投与により骨粗鬆症発症の制御。軽減の可能性が示された。
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