研究課題/領域番号 |
20K15485
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小宮 佑介 北里大学, 獣医学部, 講師 (80791665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オレイン酸 / 遅筋 / 筋線維タイプ / 成熟筋線維 / 新生筋線維 / MyHC1 |
研究実績の概要 |
これまでに申請者はオレイン酸をマウス由来筋芽細胞株C2C12から分化誘導した筋管(新生筋線維)に作用させることで遅筋タイプマーカーであるミオシン重鎖(MyHC)1が増加することを明らかにしてきた。本研究の目的は骨格筋細胞ステージに着目し、オレイン酸が骨格筋の特性を変化させることができるかを検証することである。物理刺激や筋損傷からの回復時に筋芽細胞が分化融合し形成される筋管(新生筋線維)、筋組織を構成し、筋の収縮や代謝に関連している成熟筋線維の2つの異なるステージの筋細胞へのオレイン酸の影響を検証する。 マウス短趾屈筋(中間タイプ)、長趾伸筋(速筋タイプ)およびヒラメ筋(遅筋タイプ)からコラゲナーゼ処理により成熟筋線維を単離した。培地中に100 μMオレイン酸を添加し、6時間後に遅筋タイプに関わる遺伝子のmRNA発現量を確認した。その結果、オレイン酸添加により脂質代謝に関連するPdk4, Cpt1b, Angptl4およびCd36のmRNA発現量が有意に増加した(短趾屈筋)。一方で遅筋タイプマーカーであるMyHC1やその誘導因子であるPgc1aの発現量に変化はなかった。以上より、オレイン酸は新生および成熟筋線維のいずれにおいても脂質代謝に関わる遺伝子の発現量増加を促進するが、遅筋タイプマーカーであるMyHC1は新生筋線維では増加するが、成熟筋線維では変化がないことが示唆された。そのため、新生筋線維と成熟筋線維では異なる脂肪酸応答性、筋線維タイプ制御機構を有することが推察された。 マウスに10%オレイン酸混合飼料を摂取させ、24時間後に骨格筋を摘出した。現在、遅筋タイプマーカーおよび脂質代謝関連遺伝子のmRNA発現量を解析中である。また、骨格筋において脂質代謝制御因子である核内受容体PPARdの骨格筋特異的欠損マウスをCRISPR/Cas9法により作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成熟筋線維を用いて、オレイン酸が筋線維タイプおよび脂質代謝に与える影響を検討した。外的要因による筋線維タイプの変化は筋組織(元々の筋線維タイプ)によって応答性が異なることがわかっているため、3つの組織から筋線維の単離を試みた。短趾屈筋から得られた成熟筋線維ではオレイン酸の作用を評価することができた。長趾伸筋およびヒラメ筋からは安定した筋線維の単離ができず、正しくオレイン酸の作用を解析することができなかった。 動物実験も概ね順調に進行しているため、現在の短期投与試験の解析を進めつつ、長期の試験に取り組む。先行研究で、オレイン酸による新生筋線維における脂質代謝関連遺伝子の発現量増加はPPARdの活性化を介していることを明らかにしている。オレイン酸の作用のメカニズムを詳細に解析するために、骨格筋特異的なPPARdノックダウンマウスの作成を行った。
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今後の研究の推進方策 |
長趾伸筋およびヒラメ筋からの筋線維の単離技術を習得し(技術指導受講予定)、オレイン酸の作用を再度確認する。また、成熟筋線維でも新生筋線維同様にオレイン酸による脂質代謝促進にPPARdが関与しているかをアンタゴニストを用いて検討する。 動物実験においても新生筋線維および成熟筋線維への影響を分けて評価する。全ての実験を通して対照群には飽和脂肪酸であるパルミチン酸を用いる。 成熟筋線維においての評価は通常時のマウスを用いる。10%オレイン酸混合飼料を4週間自由摂食させる。3週目にマウス用トレッドミルを用いて持久力を測定する。飼育終了後、骨格筋を摘出し、遅筋タイプやミトコンドリア関連因子のmRNAおよびタンパク質発現量を解析する。 生体において新生筋線維を形成しうる状況へのオレイン酸の影響を2つの条件で検討する。一つ目は運動トレーニングによる新生筋線維の増加である。マウス用トレッドミルを用いて、週に3日、15 m/min、1時間の条件で運動トレーニングを負荷する。運動トレーニングの1時間前に1000 mg/kg体重のオレイン酸を経口投与する。トレーニングと投与は4週間継続する。3週目にトレッドミルを用いて持久力を測定する。飼育終了後、骨格筋を摘出し、遅筋タイプやミトコンドリア関連因子のmRNAおよびタンパク質発現量を解析する。二つ目は筋損傷からの回復後の筋線維タイプへの影響である。筋損傷誘導薬剤カルディオトキシンを前脛骨筋に注入し、筋損傷を誘導する。10%オレイン酸混合飼料を自由摂食で5週間飼育する。上記と同様の解析により、損傷から回復後の筋線維タイプを評価する。PPARdを骨格筋特異的欠損マウスを使用して、上記試験でオレイン酸によって遅筋タイプの増加が見られた条件において、PPARd欠損による影響を確認する。
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