研究課題/領域番号 |
20K15486
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
水野 美麗 昭和大学, 薬学部, 講師 (60766195)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チモキノン / 抗酸化活性 / プロオキシダント効果 / 銅イオン / 鉄イオン / キレート |
研究実績の概要 |
キノン構造を有する化合物は、生体高分子に付加して毒性を示すことが知られている。一方、パラキノン構造を有するCoQ10やチモキノン(TQ)は、サプリメントやスーパーフードとして市場に多く流通している。CoQ10は、生体内の還元酵素によって産生されたCoQ10-red(還元体、ハイドロキノン)の方が抗酸化活性が高いことが報告されており、生体内での活性本体はパラキノンでなくハイドロキノンの可能性が示唆される。我々は、これら化合物が有効性を示す一方で生体内の条件次第では毒性を示すと考えた。本研究ではパラキノン骨格を有する化合物の生理作用を化学的に評価し、生体内での作用を解明することを目的とする。2020年度はTQの抗酸化活性を評価した。なおTQの還元体(THQ)の合成を行い、パラキノンとハイドロキノンでの活性の差についても併せて検討した。活性酸素種の代表的モデル化合物であるガルビノキシルラジカルを用いて、TQおよびTHQのラジカル消去能をESRで測定した。その結果、THQの方がTQよりもラジカル消去能力が高いことが明らかとなった。2021年度は、微量金属と化合物の相互作用によるDNAへの酸化的傷害(プロオキシダント効果)をアガロースゲル電気泳動法により確認した。その結果、THQはCu2+存在下、DNAに酸化的損傷を与えた。Fe2+とTHQを共存させた場合、THQの存在によらずDNAに酸化的損傷を与えた。これはFe2+がDNAに直接相互作用している可能性が考えられ、これを防ぐためにEDTAにキレートさせて同様の実験を試みた。Fe2+-EDTAとTHQをDNAに添加することで、キレートさせない場合と比べて強力にDNAの酸化的損傷が進行することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
THQはTQの還元的代謝物であり、これが抗酸化活性の活性本体だと予想される。はじめにTQとTHQによるガルビノキシルラジカル消去能力をESRを用いて評価した。その結果、TQは抗酸化物質として知られているもののラジカル消去活性は非常に弱く、THQの方が強力であった。次にこれら化合物のプロオキシダント効果の検討を試みた。微量金属と化合物の相互作用によるDNAへの酸化的傷害をアガロースゲル電気泳動法により確認した。その結果、THQはCu2+存在下でDNA損傷が増強した。さらにこのDNA切断が活性酸素由来であるか、ラジカル消去剤を添加し評価したところ、銅結合型活性酸素によるものであることがわかった。これより、TQが生体内還元酵素によって代謝されたTHQは抗酸化活性を示すが、微量金属が存在するとDNAへの酸化的傷害を引き起こすことが明らかになった。Fe2+をDNAに添加した場合、化合物の有無に関わらずDNAを切断した。これはFe2+がDNAに直接相互作用している可能性が考えられるため、これを防ぐためEDTAをキレートさせて同様の実験を試みた。興味深いことに、Fe2+-EDTAとTHQをDNAに添加することで、キレートさせない場合と比べて強力にDNAの切断が進行し、この切断はヒドロキシラジカルによるものであった。
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今後の研究の推進方策 |
①化合物がDNAやタンパクと付加体を形成するか検討を行う。 DNA 付加体の検出:Pawlowicz らは、キノン骨格を持つアクロレインとDNAとの付加体の検出方法を確立した。これを基に次のように実験を試みる。ウシ胸腺由来DNAと化合物をりん酸緩衝液中で反応させ、酵素による加水分解でヌクレオシド毎に分解する。これらの構造を1HNMRやMS測定により解析する。 ②タンパク付加体の検出:タンパクに付加する場合、システインなどの含イオウアミノ酸残基中のイオウ原子がTQやCoQ10に求核反応を起こす可能性が高い。Kumarらはパラキノン骨格を有するナフトキノン誘導体に、L-グルタチオンを反応させることで複合体の形成に成功した。これをタンパクへの付加体形成のモデル反応として利用し、基質を試験化合物で行うことで、タンパク付加体形成の有無・程度の評価を行う。 ③市販のブラッククミンシード及び CoQ10 サプリメントは、主成分以外の複数成分が含有している。これらをエタノール抽出し、同様の評価を試みる。複合成分として摂取することによるキノン性化合物の有用性や毒性への影響を確認する。 ④キノン骨格を有する別の化合物においても同様の実験を行い、置換基の違いによる抗酸化活性・プロオキシダント効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度で購入予定であった実験試薬の費用が残った。TQとTHQにおけるDNAやタンパクへの作用を評価する実験費用として、2022年度に使用する。
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