農薬による病害虫防除は作物の安定生産のため重要である。ヒトは作物を介して農薬を摂取している可能性があるため、残留農薬分析は食のリスク管理のために実施されている。残留農薬多成分一斉分析では作物から溶出される夾雑物により機器測定時のクロマトグラムが変動してしまう、いわゆるマトリックス効果(ME)が引き起こされる場合があり、精確な分析の妨げとなっている。しかし、どのような農薬と作物の組み合わせでMEが問題となりやすいかは明らかとなっていない。また、MEの対応策として、農薬の安定同位体標識化合物(SIL-IS)を用いた補正法(サロゲート法)があるが、市販されているSIL-ISの種類は限られており、補正に適したSIL-ISを科学的に選定する方法も確立されていないため、サロゲートによる補正法を多成分一斉分析に適用する課題となっている。本研究では、MEの補正に適切なSIL-IS選定手法を構築することを目標に、分析対象化合物の物理化学的特性からMEの程度を予測可能かを調べるため分析対象化合物の物理化学的特性及び作物におけるMEの解明とこれらの類型化を検証している。 今年度は作物側のMEばらつきの要因を探索するため、非結球アブラナ科作物(コマツナ、シロナ、チンゲンサイ、ミズナ)における37種類のSIL-ISのMEについて調査した。多重比較の結果、同一の種小名を持つ作物間でも22種類のSIL-ISで作物によりMEが顕著に異なることが示された。このうちいずれかの作物において深刻なイオン化抑制(ME<-20%)が認められたSIL-ISは8種類、深刻なイオン化促進(ME>20%)が示されたものは1種類であった。また、一元配置分散分析の結果、同一作物間であっても作物の栽培地域や品種、もしくはその両方がMEのばらつきに関与している可能性が示唆された。
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