研究課題/領域番号 |
20K15494
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高橋 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (20784961)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プロテオグリカン / 凍結耐性 / 植物 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
本研究では、代表的な植物プロテオグリカンであるアラビノガラクタンプロテイン(AGP)の機能に着目し、低温馴化過程でのAG糖鎖の構造変化や、その機能が凍結耐性に及ぼす影響を解析することを目的とした。AGPは膜結合型、および遊離型として細胞壁と細胞膜の双方に局在することが知られている。そこで、本研究では粗膜画分と可溶性タンパク質画分を抽出した上でAG糖鎖特異的分解酵素を作用させ、HPLCで分解物を分析することを試みた。まずは市販のブロッコリースプラウトを用いて各部位におけるAGPの糖鎖構造を解析したところ、膜上に局在しているAGPはフコース残基を側鎖構造に有し、L-アラビノースが高頻度に末端構造に存在することが推測された。次に低温馴化処理したシロイヌナズナを用いて同様の実験を行ったところ、4-メチルグルクロン酸を含む側鎖が、遊離型AGPにおいてのみ低温馴化過程で増加しているという結果が得られた。 さらに、上記の糖鎖分解過程を利用して、糖鎖にマスクされているコアタンパク質の同定と低温馴化過程での変化の解析も試みた。しかし、高感度な質量分析計を用いてもAGPのコアタンパク質を検出することは困難であった。これは酵素による糖鎖除去処理が不十分であったことが原因であることが予想されたため、現在は化学的脱グリコシル化を試みている。 一方で、シロイヌナズナゲノムがコードするAGP遺伝子のうち、ファシクリン様AGP(FLA)と呼ばれるグループの遺伝子発現量を定量的PCRにより解析した。FLA遺伝子の発現は低温馴化により様々なタイミングで変化することから、AGPのコアタンパク質発現量も低温馴化処理に対して初期に応答するものや後期に応答するものなど、多様な変化をしていることが予想された。現在は発現量が高く低温に有意に応答していたFLA8遺伝子に着目して、欠損変異体の凍結耐性評価を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた膜結合型および遊離型AGPの抽出は順調に進み、当初予定していたAGPの糖鎖構造の推定まで行うことができた。従って、3年目に予定していたAGPの糖鎖構造の低温馴化応答性の解析を前倒しして行なっている。一方で、AGPのコアタンパク質のプロテオーム解析による同定は、脱グリコシル化の更なる条件検討が必要であったことから、本年度で解析の見通しを立てることはできなかった。 AGPの主要グループであるFLAの低温馴化過程での発現解析は早期に終了し、シロイヌナズナの持つ全21種類のFLAの経時的な発現変動を明らかにすることができた。これらのうち、4種類のFLAを低温応答性のAGPとみなし、T-DNA挿入変異体の取り寄せとホモライン化を進めている。このうち、もっとも発現量が高く、低温馴化過程で有意に発言量が増加したFLA8の欠損変異体に着目した。当初、強制送風式低温恒温器を用いて寒天培地上で凍結耐性の評価を行ったが、野生型との大きな違いは見られなかった。これは寒天培地上での多湿な生育条件が影響したことが考えられる。そこで、植物をロックウールに移植して適切な湿度条件で生育させ、プログラムフリーザーで凍結した上で電解質漏出法により凍結耐性を評価したところ、良好な結果が得られた。本実験は2年目以降の予定であったが、1年目から変異体の整備や条件検討を行うことができた。 上記実験の進捗を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はブロッコリースプラウトを用いた膜結合型および遊離型AGPの糖鎖構造解析および、シロイヌナズナの遊離型AGPの低温馴化応答性の解析を進める。具体的には、従来のHPLCを用いた解析ではなく、ガスクロマトグラフィーによる糖鎖のリンケージ解析を行い、さらに詳細な糖鎖構造の解明を行う。また、2020年度は粗膜画分を用いて解析していたが、膜結合型AGPに関するより精度の高い情報を得るために、細胞膜の抽出を行なってAG糖鎖の構造解析を進めていく。 一方で、コアタンパク質の解析は、化学的脱グリコシル化の検討を行うとともに、検出が難しい糖鎖結合ドメインがほとんどを占める他のAGPと違い、それ以外の領域が多くを占めるFLAタンパク質のみに着目してプロテオーム解析を行う方向も検討する。 2020年度の研究で着目した低温応答性のAGPであるFLA8の解析に関しては、電解質漏出法を用いた欠損変異体の凍結耐性評価を進める。また、FLA8と他の低温応答性FLA遺伝子の二重欠損変異体の作成を進める。さらに、GFPを連結したコンストラクトを用いて局在性を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国内外の学会が中止、延期、もしくはオンライン開催に変更されたため、旅費の支出予定額に差異が生じた。次年度は細胞膜抽出に用いる高額試薬であるデキストランの購入費に補填する予定である。
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