研究課題/領域番号 |
20K15496
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
相馬 史幸 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (50869097)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乾燥ストレス感知 / キナーゼ活性化 / ストレス耐性植物 / 初期応答機構 |
研究実績の概要 |
地球温暖化等の影響により世界中で環境が劣悪化している。環境ストレスの中でも乾燥や塩害などの浸透圧ストレスは作物の収量に大きな悪影響を及ぼす。劣悪化する環境下で人口増加を賄う食料生産を維持するためには、劣悪化でも収量が低下しないストレス耐性作物の開発が急務となっている。そこで、植物が本来持つ乾燥ストレス応答機構を明らかにし、改変することでストレス耐性作物の作出に貢献しようと考えた。特に研究が遅れている浸透圧ストレスの感知などの初期応答機構の解明に着目した。これまでの先行研究から、植物の乾燥ストレス初期応答においてSnRK2タンパク質キナーゼが重要な働きを示すことが明らかになっている。そこで乾燥ストレスで素早く活性化するSnRK2タンパク質キナーゼの上流因子について解き明かすことで浸透圧ストレス初期応答機構の解明を試みた。浸透圧ストレス初期においてSnRK2と物理的に相互作用している因子を網羅的に解析したところ、複数のサブファミリーに属するRAFタンパク質キナーゼを同定した。またそのRAFタンパク質キナーゼはサブファミリーごとに異なるストレス強度・タイミングにおいてSnRK2タンパク質キナーゼの活性を制御していることが明らかになった。今後は複数のRAFタンパク質キナーゼがSnRK2を制御している生理学的意義を明らかにするとともに、RAFタンパク質キナーゼの活性化を担う上流因子を探索することで浸透圧ストレスの感知メカニズムを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、植物が乾燥や塩害等の浸透圧ストレスをどのように感知しているかを明らかにすることを目的としている。具体的には、申請者がこれまでに明らかにした浸透圧ストレス情報伝達における主要因子であるSnRK2タンパク質キナーゼの活性化に関わるタンパク質因子や、浸透圧ストレスセンサーの同定を目指した。浸透圧ストレス条件下でSnRK2タンパク質キナーゼと物理的に相互作用している因子の網羅的な解析を行った結果、複数のRAFタンパク質キナーゼを同定した。これまでにもSnRK2は上流の複数種のRAFタンパク質キナーゼによって活性化されることは報告されているが、今回の解析ではこれまでに報告されていないRAFタンパク質キナーゼも同定された。一方で、それぞれのRAFタンパク質キナーゼよるSnRK2の活性化に関わる機能分けはなされていない。そこで次に、新たにSnRK2の上流活性化因子の候補として同定されたRAFタンパク質キナーゼがSnRK2を活性化する機能があることを確認した。次にこれらのRAFタンパク質キナーゼの機能分けを明らかにするために、これまでにSnRK2の上流で機能すると報告されていたRAFの欠損変異体と新たに同定されたRAFの欠損変異体を作出し、それぞれの変異体の乾燥に対する応答性を確認した。その結果、乾燥ストレスの強度や時間によりそれぞれのRAFがSnRK2を活性化するタイミングが異なることが示された。以上により、浸透圧ストレスの初期において、複数のRAFタンパク質キナーゼがストレス強度に対して柔軟にSnRK2の活性を制御している機構が明らかになった。RAFキナーゼの活性を調節することでさまざまな強度の乾燥ストレスに対する耐性作物の作出に貢献できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
すでにSnRK2タンパク質キナーゼの活性を制御するRAFタンパク質キナーゼの多重変異体を作出した。それらの変異体の様々なストレス条件下における遺伝子変動パターンをトランスクリプトーム解析により明らかにすることで、それぞれのサブファミリーに属するRAFタンパク質キナーゼの機能を明らかにする。またそれぞれの変異体におけるSnRK2キナーゼの活性化を再評価することで、RAFの機能を明らかにする。これらの解析を通して、植物が乾燥強度に応じた柔軟なストレス応答機構を明らかにできると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延防止対策における研究機関の閉鎖により実験が一時中断したため、少額ではあるが次年度に繰り越しが生じた。実験計画と使用計画は当初の予定通り進める予定である。
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