植物は病原体の認識に伴って、病原体の認識部位での局所的な防御応答に加え、長距離シグナルを介した全身での防御応答を発揮する(全身獲得抵抗性)。全身獲得抵抗性発揮時には、防御応答遺伝子が二次感染に対して迅速または鋭敏に発現可能なプライミング状態となることが知られている。 本研究では、植物における防御応答遺伝子のプライミングの制御基盤の一端を明らかにすることを目的とした。シロイヌナズナの種々の変異体植物とトマト斑葉細菌病菌Pseudomonas syringae pv. tomato AvrRpm1を用いて解析を行った。その結果、低分子RNAの生成を通じてRNAサイレンシングに寄与するDCL遺伝子の変異体植物(dcl植物)において、防御応答マーカー遺伝子のプライミングならびに全身獲得抵抗性が低下していることを見出した。加えて、DCLは病原体の認識部位における局所的な防御応答の後に生じる、長距離シグナルの生成から非感染葉での防御応答遺伝子のプライミング成立に到るまでのいずれかのステップで機能することが示唆された。 本年度は、野生型植物およびdcl植物にプライミングを誘導し、トランスクリプトーム解析に供した。得られたデータを解析し、DCL依存的にプライミングの標的となる遺伝子群について網羅的に同定を行っているところである。また、プライミングが低下していることをすでに見出しているヒストン修飾因子変異体植物でのトランスクリプトーム解析結果と、今回の解析結果を相互に照らし合わせることにより、低分子RNA制御経路とヒストン修飾を介した遺伝子発現制御経路の共通性やそれぞれの特異性についても情報を得ていきたいと考えている。
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