これまでの研究から、栽培イネと野生イネの雑種胚乳では、インプリント遺伝子の片親特異的な発現パターンに異常が生じることを明らかにしてきた。本年度は、これら雑種胚乳で異常を示すインプリント遺伝子が、どのようなエピゲノムに制御されるのかを調査した。昨年取得した栽培イネの胚乳におけるエピゲノム情報と比較した結果、インプリント遺伝子によって、その制御様式が大きく異なることを明らかにするとともに、雑種胚乳で発現パターンに異常が生じるインプリント遺伝子のほとんどが、抑制型のヒストン修飾であるH3K27me3に制御されていることが明らかになった。また、H3K27me3修飾に関わるポリコーム複合体の変異体系統(emf2a変異体)の胚乳でも、同様のインプリント遺伝子の発現パターンの異常が観察されたことから、種間交雑で見られる胚乳発生の異常は、雑種胚乳におけるH3K27me3レベルの変化が関与していることが示唆された。 さらに、雑種胚乳におけるH3K27me3レベルの変化が胚乳発生の異常に関与するかを検証するために、emf2a変異体と3種の野生イネとの種間交雑を実施したところ、2種の野生イネとの雑種胚乳の発生が正常化した。胚乳発生の正常化が見られた組合せでは、種間交雑から得られる雑種種子における生存率は有意に上昇しており、多くの種間交雑では雑種胚乳のH3K27me3レベルを低下させることで、生殖的隔離を緩和できることを明らかにした。現在は、栽培イネと野生イネとのエピゲノム解析を進めている。
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