作物栽培において発芽時の湿害は、安定生産に深刻な問題を引き起こすことから、発芽時耐湿性育種は様々な作物において求められており、その遺伝的制御機構の解明は緊急の課題である。発芽時耐湿性に関連する性質のひとつとして不定根形成が挙げられているが、その表現型解析の再現性が低いことから詳細な遺伝解析が困難であった。一方で、殺菌水の使用や土壌・種子殺菌処理により発芽時耐湿性が向上することが示されていることから、表現型解析時の再現性の低さの理由として不定根形成能だけに注目してきたことにあると考え、新たに幼根の抗菌活性能に着目した。本研究は、播種時の冠水処理において畑作物種の中でも湿害に極めて弱いソバを用いて、抗菌活性能の差異が湿害発生時の不定根形成に与える影響を調査し、不定根形成における不定根形成能と抗菌活性能の作用を明確にした発芽時耐湿性評価、分離集団の作製とその表現型解析、および遺伝解析を実施することで、作物が有する発芽時耐湿性における遺伝的制御機構の詳細に迫るものである。 令和4年度においては、発芽時耐湿性の遺伝解析とともに、ソバ発芽時の腐敗菌を用いた抗菌活性能の評価を試みた。得られた研究成果は以下となる。 ・発芽時耐湿性の評価に用いたF2個体別F3系統では、同一系統内の種子間において発芽時耐湿性の様態に差異が認められた。これは遺伝的固定度の低さが要因として考えられ、さらに遺伝的固定度を高めた集団を供試する必要があると考えられた。 ・ソバ発芽時の腐敗様相の比較により、これまで明らかにされていない複数の腐敗菌の存在に加え、遺伝資源系統間で菌叢に差異がある可能性が考えられ、菌の特定などの詳細を新たに調査する必要が明らかとなった。 以上のことから、本補助事業期間内で発芽時耐湿性における遺伝的制御機構の詳細解明までは至らなかったが、本研究で得られた新たな知見を基盤として、今後の進展を目指す。
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