研究課題/領域番号 |
20K15515
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
出口 亜由美 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 特任助教 (20780563)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 花色 / アントシアニン / AVIs / フラボノイド / ダリア / ニチニチソウ |
研究実績の概要 |
赤色色素アントシアニンは,まれに植物細胞液胞内でAnthocyanic vacuolar inclusions (AVIs)と呼ばれる凝集体を形成する.AVIs形成は花色や果皮色を特徴的な色へと変化させ,また,アントシアニンの高蓄積とも関わることが示唆されている.しかし,AVIsの形成機構には不明な点が多い.本研究では,研究代表者が見つけたダリアおよびニチニチソウのAVIs形成品種を用いて色素および遺伝子発現解析を行い,両種のAVIs形成に共通する条件および制御遺伝子を特定する. 2020年度は主にダリアを用いて解析を行った.ダリアのAVIs形成品種は夏季のみAVIsを形成し特殊な花色を示すのに対し,冬季にはAVIsを形成せず一般的な赤紫色を示す.色素解析の結果,冬季の花弁では淡黄色色素のフラボンが蓄積しており,同時にアントシアニン蓄積量が夏季の花弁と比較して少ないことがわかった.また,遺伝子発現解析の結果,冬季のフラボン蓄積は,フラボン合成酵素遺伝子(DvFNS)の発現量増加に起因することが明らかになった.しかし,ダリアの黒色系品種はDvFNSを発現せずフラボンを蓄積しないがAVIsも形成しない.より詳細な形成条件の調査のため,AVIs形成品種を用いて交配を行い,後代においてAVIs形成系統と非形成系統を得た.これらの色素解析の結果,AVIs形成には,フラボンを蓄積しないことだけでなく,AVIs構成アントシアニンである3,5ジグルコシル型アントシアニンの蓄積量が一定量以上,かつ,アントシアニン総蓄積量に対するその割合が一定以上であることが必要だと示唆された.フラボン等のアントシアニン以外の色素の蓄積がみられないこと,および,特定のアントシアニンを高蓄積するという特徴は,ニチニチソウのAVIs形成品種でも同様であり,これらは共通のAVIs形成条件であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダリアとニチニチソウにおけるAVIs形成のための共通した色素蓄積条件を見出すことができた.また,AVIs形成の制御遺伝子を探索するための遺伝子解析用の材料として有用な,AVIs形成系統と非形成系統をAVIs形成品種の交配後代において複数系統獲得した.そのため,おおむね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
ダリアのAVIs形成品種において,フラボン蓄積によりAVIs形成が抑制される理由としては,フラボンが物理的にアントシアニンの凝集を阻害する可能性と,基質競合の影響によりAVIs構成アントシアニン蓄積量が形成に必要な閾値以下になることが原因である可能性が考えられた.いずれに因るものかを検証するために,in vitroでの色素調合による凝集の有無を調査する予定であり,そのための色素精製を現在進めている. AVIs形成制御遺伝子の探索は,2020年度に作成したダリアのAVIs形成系統と非形成系統を用いたRNA-seqにより行う.このAVIs形成系統の中には,細胞当たりのAVIs形成頻度にばらつきが見られているため,遺伝子発現量の解析によりAVIs形成の有無だけでなく,その量的な制御機構まで明らかにしたいと考えている. ニチニチソウに関しては,形成品種と非形成品種の交配によりF2集団を獲得し,ゲノムからのアプローチとしてRAD-seqによりSNPs検出,AVIs形成の有無と対応するゲノム領域とその近傍遺伝子,すなわちAVIs形成の機構制御遺伝子候補を調査する予定である.2020年度の交配では適当なF1を入手することができなかったが,温室で加温栽培することにより年2回の世代更新が可能であると確認できたため,2021年度中にF2の獲得と解析を実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の後半に,本研究での解析に必要不可欠であるHPLCシステムに不具合が生じ,ソフトウェアを新規に購入する必要が生じた.そのため,物品費およびその他の支出を抑え,購入費用を捻出した.ソフトウェアの納品が次年度になるため,その分が次年度使用額として残っている.購入費用は次年度使用額とほぼ同額である.
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