本研究では、ダイコンへの接ぎ木による花成誘導法を利用した“花の咲かない野菜種子”生産体系の開発に向けて、ダイコンが示す強力な接ぎ木花成誘導能力に関わる因子の特定と、接ぎ木による採種法と通常の採種法とで得た種子の農業形質の比較を行った。本年度は、2021年度までに開発したFTタンパク質の定量系を用いて、接ぎ木したキャベツ穂木の開花反応と、穂木に蓄積したFTタンパク質の量との関係を詳細に調べた。その結果、遺伝子型の異なる台木系統に接ぎ木した際のキャベツ穂木の開花反応の違いは、穂木におけるFT蓄積量によりおおむね説明できることを示した。続いて、穂木におけるFT蓄積量の違いを生む台木の要因を特定するため、種子春化処理、日長処理、適葉処理により植物体の状態を変えたダイコン台木への接ぎ木実験を行った。その結果、台木の葉におけるFT遺伝子発現量および葉面積が穂木におけるFT蓄積量に寄与していること、すなわちこれら2要因がダイコンの接ぎ木花成誘導能力に関わっていることを示した。 上記の実験を通して見出した花成誘導能力の高いダイコン台木を用いて、接ぎ木による‘不抽苔’の花成誘導を共同研究者と実施した。その結果、以前よりも高い確率で‘不抽苔’を開花させ、自殖後代を得ることができた。また圃場での栽培により、得られた自殖後代では難開花性が維持されていることも確認した。一方で接ぎ木により花成誘導した‘不抽苔’では、他のキャベツ品種と比較して奇形花や種子形成異常の発生が多く、得られた種子数が少なくなった。本研究を通して“花の咲かない野菜種子”生産体系の概念実証はできたものの、その実用化のためには採種量を増やすことが課題として明らかになった。今回見出したFT供給能力に関わる台木の要因に着目し、より強力な花成誘導能力をもつ台木を作出することが、課題解決の一つの方策になると考えている。
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