100L鉢で栽培されている亜熱帯果樹アボカドの5年生接木苗に,0.5mMのNaHS(水に溶解しH2Sを発生させる試薬)を週に1回1L施与した.最低気温8℃程度の軽微な低温ストレス環境下において光合成は30%ほど促進された.一方で,葉の損傷の指標であるFv/Fmへの影響はみられず,H2Sによる葉の損傷抑制効果は認められなかった. 同様にして亜熱帯果樹のパッションフルーツにNaHSを施与した.試験は2年に渡っておこなったが,両年とも最低気温5℃以上の条件では光合成速度が15-30%程度促進した.またアボカド同様に,葉の損傷の指標であるFv/Fmへの影響はみられず,H2Sによる葉の損傷抑制効果は認められなかった.また最低気温が5℃以下のパッションフルーツにとっては強い低温ストレス下ではH2Sによる光合成促進効果もみられなかった.さらに,光合成速度の促進は果実品質の向上にはつながらなかった. 熱帯果樹カカオでも同様の試験を2年に渡りおこなったが,両年とも最低気温10℃程度の低温条件下で光合成速度は促進されなかった.また,葉の損傷の指標であるFv/Fmの低下を抑制しなかった. また,パッションフルーツに関してはH2Sが高温ストレスにおよぼす影響についても評価した.高温ストレスは低温ストレスとは逆のストレスではあるが,その耐性メカニズムには共通点が多い.その結果,最高気温が40℃をこえる強い高温ストレス下においてのみ,H2Sによって光合成速度が促進された.一方で,葉の損傷の指標となるFv/Fmなどに関しては影響を与えなかった.
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