ブドウ‘デラウェア’の加温栽培において、日没の2時間前からハウス内温度を一時的に25℃まで高め、日没時から夜間を13℃で管理する日没前昇温法(BEOD加温)について、糖集積促進メカニズムを13Cトレーサー法で明らかにしようとした。具体的な処理方法として、日没前昇温区はチャンバー内において、炭素同位体(13C)を25℃で2時間同化させたのち、13℃まで急速に低下させて(クイックドロップ、QD)、2時間後に解体調査を行った。一方、対照区はQDを行わずに25℃を維持しながら同様の方法で解体調査した。その結果、果実に含まれる13Cの割合は、両区で差がみられず、日没前昇温法の糖集積促進効果は判然としなかった。 また、EOD加温(日没後昇温)の葉色値向上効果については、窒素吸収が深く関与していると考えられるため、15Nトレーサー法による立証を試みた。その結果、葉身の15N器官別分配率は、EOD加温区が慣行区と比較して高くなる傾向を示した。また、根から吸収された窒素の移動経路となる旧枝、結果母枝、新梢の各部位もEOD加温区が慣行区より高くなる傾向が認められた。 次に、糖集積促進効果のある日没前昇温法では、QDにより同化産物の転流が促されている可能性があるため、同化産物の移動経路となる葉柄において、転流糖の一つであるグルコース濃度が高まると推察される。このことを明らかにするため、葉柄樹液診断法に着目した。その結果、葉柄樹液のグルコース濃度について、小型反射式光度計を用いた測定値と常法(HPLC)による測定値との間には高い相関が認められた。また、グルコースの抽出には48時間以上必要であることが明らかになった。 以上の結果から、葉柄樹液診断は同化産物の転流状態を把握する簡易な手法として利用できる可能性がある。今後、この方法を利用した日没前昇温法による糖集積促進効果について調査する予定である。
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