研究課題/領域番号 |
20K15531
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
酒井 一成 北里大学, 大村智記念研究所, 特任助手 (90760075)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 植物病原糸状菌 / 食虫植物 / Droisera rotundifolia / 抗菌剤 / 農薬 |
研究実績の概要 |
申請者は先行研究において食虫植物から分離した真菌を利用し抗菌活性試験を行ったところ植物病原細菌Xanthomonas campestrisに対して抗菌活性を示す株が多数確認できたことから食虫植物由来真菌を用いて植物病原糸状菌に対しての抗菌活性物質の探索を目的とした。研究は三段階で行うこととした。第一段階目: 自生する食虫植物から真菌を分離する。第二段階目: 分離した真菌を用いて微生物培養液を作成し、植物病原真菌に対して活性評価試験を行う。第三段階目: 抗真菌活性を示した微生物培養液を大量培養し抗真菌活性物質を取得する計画を構築した。昨年度 (2020年度) 第一段階として八丈島に自生するモウセンゴケ (Droisera rotundifolia) から真菌類46株を分離した。分離した真菌類46株を全てITS領域 (真菌のバーコーディング領域)をDNA解析した結果、25属に分類された。さらにこれらのうち3株はDNAの相同性95%以下であるため新種の可能性が示唆された。また5株は当研究所でも分離例のない菌株であることが示唆される結果となった。分離の結果から真菌の多様性という意味でも有益な分離であることが考えられた。 分離した真菌46株を独自に作成した真菌二次代謝産物生産用培地4種で培養を行い微生物培養抽出物とした。これらを用いて真菌4種 (内2種は植物病原真菌)、細菌4種 (内1種は植物病原細菌) に対して抗菌活性試験を行った。その結果、植物病原真菌にも抗菌活性を示す微生物培養抽出物を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者の当初の予定では以前サラセニアから分離した真菌を用いて化合物探索する予定であったが、当初予定していた評価対象である植物病原真菌類の胞子懸濁液を用いた評価が困難 (保有していた真菌も取り寄せた菌株も胞子生産できなかった)であった。そのため、次年度の自生するモウセンゴケから真菌類を分離することとしたが昨今のコロナ禍で容易に植物のサンプリング等が行えなかった。しかし、以前採取していたモウセンゴケから真菌類を46株分離することができた。全ての株でDNA解析した結果、3株が相同性95%以下であることが明らかとなった。真菌ではバーコーディング領域であるITS領域において既知種との相同性が95%以下であれば新種の可能性が示唆される。そのため本研究で得られた3株に関しては新種である可能性がある。また本研究で取得した46株の真菌を4種の二次代謝産物生産培地を培養し、微生物培養物を得た。得られた微生物培養物を用いて当研究所が保有する6種抗菌試験に植物病原菌であるPyricularia oryzae (ストルビルリン感受性菌)およびP. oryzae (ストルビルリン耐性菌)を加えた8種でペーパーディスク法を用いて抗菌活性試験を行った。その結果、ストルビルリン耐性P. oryzae に対して抗菌活性を示した微生物培養物は10サンプルであった。現在、ストルビルリン耐性P. oryzaeに対して抗菌活性を示した10サンプルから抗菌物質の単離・構造決定を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は当初の計画書に記載した八丈島にモウセンゴケを採取に行き、フレッシュなモウセンゴケから真菌の分離を再度行う予定である。また昨年度実施したP. oryzaeに対する抗菌活性試験は菌糸の状態で抗菌活性試験を行った。そのため阻止円も歪でありP. oryzaeに対する抗菌活性評価を指標に化合物の取得を行うことが困難であることが予想されるだけでなく単離した抗菌物質のMIC測定が寒天混釈法でしか評価ができないため胞子懸濁液を作成しペーパーディスク法に応用し、且つ単離した抗菌物質のMIC測定を微量液体希釈法でも評価できるようP. oryzaeの培養条件の検討を行う予定である。さらに、環境毒性の指標であるオオミジンコ (Daphnia magna)、ムレミカズキモ (Raphidocelis subcapitata)、メダカ (Oryzias属)のうち当研究室で評価できる毒性試験としてオオミジンコまたはムレミカズキモの急性毒性試験によるLC50 (半数致死濃度)またはEC50(半数影響濃度)の評価系の立ち上げを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により研究の進捗に多少の遅れおよび実験内容の変更を余儀なくされたため昨年度未使用分と本年度使用分を合算して本年度使用したいと考えている。 使用計画の変更としては昨年度行えなかった緑藻を用いた環境毒性試験の実施および食虫植物であるサラセニアから分離した真菌類から抗真菌活性物質の取得を行うために昨年度未使用分を使用したいと考えている。
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