研究課題/領域番号 |
20K15532
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
宮田 佳奈 明治大学, 研究・知財戦略機構(生田), 研究推進員(客員研究員) (10637143)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物-微生物間相互作用 / Parasponia / 根粒菌共生 / キチン誘導性防御応答 / LysM型受容体キナーゼ |
研究実績の概要 |
Parasponiaは非マメ科であり根粒菌と共生する木本植物である。ParasponiaのLysM型受容体キナーゼ、PanLYK3は、根粒菌共生とキチン誘導性防御応答という対照的な2つの応答において重要な機能を持つ。Parasponiaの根粒菌共生は、PanLYK3とPanNFP2という受容体が複合体を形成することで誘導されると考えられている。しかし、PanLYK3と共に防御応答に関わっている受容体は未だ明らかになっていない。 本研究では、キチン誘導性防御応答に関わる受容体として、LysMモチーフを持つ3つのタンパク質を候補として挙げている。それらの候補遺伝子の欠損変異体を作成し、防御・共生における応答の評価を行うことにより、PanLYK3と複合体を形成してキチン誘導性の防御応答の起動に関わる受容体を同定し、機能解析を通して、防御応答と共生応答が選択的に起動されるメカニズムの解明を目指す。 2021年度は、手続きを経てオランダから分譲された種子を発芽させ、培地上、もしくは温室内の土壌で生育させることにより、十分な実験試料を作出した。また、タバコの葉を用いて過剰発現させた候補受容体タンパク質を用いて、PanLYK3との相互作用解析を開始した。加えて、野生型の植物体を用いて、キチン誘導性の防御応答及び根粒菌共生の評価に関する予備実験を行った。その結果、キチン誘導性のROS応答解析、および根粒菌共生の評価において、野生型で十分な応答を検出することに成功した。さらに、Parasponiaの野生型植物体に対し、ゲノム編集技術を用いて、候補遺伝子の欠損変異体を作出するための形質転換を開始しており、2021年度以降は、作出した形質転換体に対して下流の応答の評価を行うことで、キチン誘導性防御応答において機能する受容体の同定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は、実験の開始に際し、Parasponiaの種子をオランダから取り寄せたが、感染症の拡大に伴いオランダにおける国外への植物持ち出しに関する手続きが大幅に遅れ、Parasponiaを用いた実験のスタートが8月末となった。その間は、タバコの葉を用いた実験を行っており、BiFC法を用いた相互作用解析の結果、候補遺伝子の1つに関してはPanLYK3と結合している可能性が高いことが明らかとなった。 Parasponiaの種子が到着してから、培地上及び土壌において植物体の生育を行ったが、土などの条件はオランダの研究室と完全に一致するものを用いることは難しく、形状が近いものをいくつか検討し、野生型のParasponiaの生育に最適な土を見つけるに至った。 また、根粒菌の接種実験に関しては、オランダの研究室から、実験条件を整えるのが難しいとの提言を受け、2022年度にオランダに滞在して根粒菌の接種実験を行うことを予定していた。しかし、ポットに独自の改良を加え、何種類かの人工気象機を用いて接種実験を行ったところ、そのうちの1種類で安定した根粒形成を誘導することに成功した。そのことから、2022年度に予定していた根粒菌接種実験は、国内で行うことに変更した。また、キチン誘導性のROS応答に関しても、オランダの実験条件を基にし、キチン7量体を処理した野生型Parasponiaの根に関して、十分な応答を検出することに成功した。これらの点を鑑みて、本研究課題は当初の予定以上に進展していると判断した。 現在、形質転換に用いるベクターの作成が完了したものから、2020年度に生育させたParasponiaの野生型植物体を用いて、候補遺伝子の欠損変異体を作出するための形質転換を試みている。変異体を獲得し次第、キチン誘導性の防御応答及び根粒菌共生の表現型に関して評価を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、土壌において十分に生育させたParasponia植物体に対して、ゲノム編集技術を用い、候補遺伝子に関する欠損変異体の作出を行っている。Parasponiaにおいてキチン誘導性の防御応答に関わる可能性のある候補遺伝子3つの欠損変異体および、コントロールとして作出を計画しているPanlyk3欠損変異体とPannfp1;Pannfp2二重欠損変異体、Ca2+スパイキングを検出するためのGECOタンパクを過剰発現させたラインに関して、2021年度中に作出を完了させる予定である。 2020年度内に、野生型のParasponiaを用いることでキチン誘導性のROS応答及び根粒菌共生の表現型に関する評価方法の確立は完了しているが、もう一つのキチン誘導性防御応答の評価方法である、キチン処理時のMPK3/6リン酸化評価に関しては、未だ条件検討中である。また、共生の下流の応答としてNodファクターに対するCa2+スパイキングが挙げられるが、これに関しては現在行っている形質転換から、GECOの過剰発現体ラインが獲得され次第、条件の確立を目指す。2021年度は形質転換体の作出に加え、これらの下流応答の評価方法の確立を完了させることを目標とする。 形質転換に加えて、BIFC法とCO-IP法を用いてPanLYK3と候補遺伝子の相互作用解析に関しても継続して行う予定であり、また、候補遺伝子と7量体キチンとの結合解析に関しても明らかにしていきたいと考えている。 また、2020年度は感染症拡大の影響を受け、研究のスタートが遅れたことから、学会において情報発信を行うことが出来なかったことから、2021年度は学会への参加を積極的に行い、情報交換に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の開始時にオランダに滞在し、Parasponiaの種子を分譲してもらう予定であったが、感染症拡大の影響で滞在が不可能になり、植物の輸送を業者に委託する形で代替えした。 しかし、植物を輸送する際にオランダ側がロックダウンになり、植物を輸送する手続きが整わず、Parasponiaの種子の到着が大幅に遅れる結果となった。また緊急事態宣言の影響を受け、2020年4月・5月に大学内に入構することが出来なかったことから、実験が部分的に予定より遅れており、特にプラスチック製品を多く使用する形質転換体の作出を2021年度に行うこととなった。これを受け、その分の費用を次年度へと繰越した。 繰越した予算に関しては、形質転換に用いるプラスチック製品や、栽培に用いるポットや土、および必要な試薬の購入に用いる予定である。 また、実験の遅れから、当初予定していた2020年度の日本植物バイオテクノロジー学会が中止になっており参加することができなかった。その分2021年度に複数の学会に参加を予定しており、繰り越した費用に関してはその参加費等にも用いる予定である。
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