本研究は、湿性草原棲の小型鳥類4種(絶滅危惧種2種を含む)を指標として、冬季において、①統一的な基準で耕作放棄地の生態的価値の広域的な評価を試み、②生態的価値が高い耕作放棄地の特徴と成立条件を明らかにするものである。①については、対象4種の全国規模の越冬確認調査を3冬季で実施し、越冬個体の耕作放棄地の生息割合を地方毎に定量化する。これによって、耕作放棄地の生態的価値を統一的に評価でき、地方間の比較も可能となる。②については、対象4種の越冬が既に確認されている関東地方にて、耕作放棄地の履歴・管理手法・植生構造と、対象4種の越冬状況に関する詳細な情報を収集し、湿性草原棲鳥類の保全において生態的価値が高い耕作放棄地の特徴と成立条件を明らかにする。これらの結果を統合し、耕作放棄地を巡る社会的問題と生物多様性および絶滅危惧鳥類の保全の両立について提言する。 ①については、東北(西部)・関東(北部・南西部)・東海(伊豆半島)・北陸・近畿(西部)・中国・四国・九州・南西諸島(奄美諸島)の計305ヶ所にて越冬確認調査(音声プレイバック)を実施し、申請者の過去の研究成果も合わせて日本全国(ただし南西諸島の大部分を除く)での対象4種の越冬状況の詳細が明らかになった。特に絶滅危惧種であるオオセッカとシマクイナは地方の初記録・初越冬記録が多く確認され、前者は中国・四国地方と九州地方のそれぞれについて、後者は中国・四国・九州地方について、鳥類学専門誌に計3本の論文を投稿し受理・掲載された。越冬個体の耕作放棄地の生息割合の地方毎の定量化には、北陸地方と南西諸島の追加調査が必要で、現在はデータを解析中である。 ②については、茨城県神栖市の矢田部農耕地の耕作放棄地6ヶ所にて詳細な越冬確認調査(音声プレイバック・自動録音・カメラトラップ)と植生調査を2冬季実施した。データは解析中である。
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