| 研究課題/領域番号 |
20K15546
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| 研究機関 | 東京大学 |
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研究代表者 |
野澤 俊太郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (20814528)
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| 研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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| キーワード | 近世 / 佐渡 / 農村 / 景観 / 世界農業遺産 / 農文化 / 食文化 / 自給的農業 |
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| 研究実績の概要 |
初年度は、近世期農業景観をデジタル地図で再現する手法を確立すべく、史料収集並びにデータ整理に注力した。本研究が提案する景観再現手法の特徴は、今日佐渡の地番表記から消滅した小字を分析単位とする点にある。地押調査更生地図（明治中期の地籍図）を用いて小字をデジタル地図上で再現し、御検地水張（江戸期の検地記録）の耕作地等に係る情報を入力することで近世期の土地利用形態が表現できるものと見積もっている。初年度に進めた各種作業により、近世期小字の部分的再現に道筋を付けることができた。
デジタル地図による景観再現手法の確立に向けて、以下2つの作業を継続的に進めている。
1つは小字リストの作成である。明治期の地押調査更生地図を用いて小字区画を再現することから、初年度に収集した調査対象地域の同図並びに御検地水張を基に、江戸期および明治期に存在した小字の照合作業を進めている。これまでの照合作業の結果、両時期を通じて小字名称に変更がなく、近世期からの連続性が確認できる小字が比較的多く存在することが明らかとなっている。今後はこのような照合可能な小字に焦点を当て、土地利用形態の評価・分析を行っていくことになるものと見積もっている。
もう1つは小字区画の確定作業である。地押調査更生地図と現在の地籍図を照らし合わせながら、小字区画を再現する作業を進めている。両図の比較を通じて、調査対象地域の1集落を除き、明治期以来土地区画に大きな変化が見られないことが明らかとなっている。調査対象地域のうち1集落については、地理情報システムに搭載可能な小字ポリゴン（図形データ）が概ね完成している。国土地理院電子国土ウェブやGoogle Earth等のベースマップと重ね合わせ、位置関係等が正確であること、並びに土地利用形態の評価に資することを確認している。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近世期小字の部分的再現に道筋をつけることができたという点において、初年度の進捗状況は概ね順調であったと評することができる。
初年度の各種作業を通じて、研究計画にいくつか変更が生じている。その主たるものに調査対象地域の変更（統一化）が挙げられる。本研究は当初、景観再現による史的空間分析および今日の自給的農業における作付慣行の現況調査を小佐渡山地周辺のそれぞれ別地域で執り行う予定であった。しかし、史料収集に先立ち研究計画の再検討を行った結果、同一地域を対象とした方がむしろ総合的な知見が得られると予想できたことから、調査対象地域を両津地域月布施、野浦、東強清水地区の3集落に統一することとした。
調査対象地域の統一化が奏功し、円滑に史料収集を執り行うことができた。令和2（2020）年8月に実施した現地調査では、佐渡市役所両津支所を訪問し、調査対象地域の地押調査更生地図の閲覧並びに撮影を行った。併せて、上記3集落を訪問し、御検地水張の閲覧並びに撮影を行った。野浦および月布施地区訪問時には、自給的農業を営む案内役の方々の耕作地にも足を運び、作付慣行の現況に係る予備調査を実施した。
現地調査の結果、史的空間分析の対象は17世紀後半に限定されない見込みとなった。月布施および東強清水地区においては、当初想定していたとおり元禄7（1694）年の御検地水張が保管されていたものの、野浦地区には元禄年間作成の検地記録がなく、代わりに寛政12（1800）年の御検地水張を収集した。よって、史的空間分析の対象は広く近世期全般となる予定である。
現地調査終了後は、先述のとおり、小字リストの作成および小字区画の確定作業を進めている。すでに完成した1集落（東強清水地区）の小字ポリゴン作成においては、確定した小字区画図（字界図）を基に、地理情報システムの1つであるQGISを用いて図形データの加工作業を行なった。
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| 今後の研究の推進方策 |
令和3（2021）年度に、近世期の土地利用形態を再現するためのデジタル地図データ一式を完成させるとともに、史的農業景観の文化的、社会的、生態学的側面を小字単位で多角的に評価するための分析手法について検討を進める。初年度に行った現地調査の結果、現在でも地元の人々の間で小字名称が一般的に用いられていることが明らかになっており、農業景観を構成する一つの文化的まとまりとして捉えていくことの有効性が確認されている。
具体的な史的景観分析手法として、小字の類型化による土地利用評価を想定している。小字の類型化においては、御検地水帳から明らかにされる田および畑の数、並びにそれらの分布状況、地理条件等が指標になり得るものと想定している。類型化された各小字の特徴および現況を把握するため、月布施、野浦、東強清水地区にて現地調査を行う予定である。同時に、各小字にまつわる言い伝えや作付慣行等に係るヒアリング調査等を実施したいと考えている。なお、現地調査計画の策定においては、新型コロナウイルス感染症の状況に十分留意するものとする。
令和4（2022）年度に、近世期および現在の調査対象地域の土地利用形態について比較・分析を行う予定である。それらの相違点を生態学的および民俗学的側面、とりわけ今日にも残る作付慣行、農文化、食文化との関係等に着目しながら考察することになるものと見積もっている。一連の研究成果は、論文にまとめて国際誌に投稿する他、地元の方々とも共有すべく、区会（自治会）での成果発表等の機会を設定する方向で検討を進めている。この他、令和3-4年度は、月布施、野浦、東強清水地区の事例を相対化させるため、佐渡の他地域、あるいは佐渡以外の地域における農業景観の歴史、作付慣行、農文化、食文化等についても各種調査を行う予定である。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた主な理由に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、現地調査等の学外における研究活動の規模を大幅に縮小したことが挙げられる。しばらく感染症拡大が続くものと想定されるが、研究拠点並びに調査対象地域の感染状況に十分留意しながら、可能な限り現地調査を実施する方向で検討を進めている。
現地調査に際しては、交通費や宿泊費のみならず、各種備品の購入費用等が発生する見込みである。耕作地の現況調査や作付慣行調査等を想定し、調査地点の位置情報が計測可能なGPS機器等の購入を検討している。現地調査後のデータ整理に際しては、アシスタントへの補助業務委託、並びに謝金支払いが発生する見込みである。
他方、感染症拡大の影響で十分に現地調査ができないことも想定し、佐渡の農林業等に係る古い書籍（貴重書）等を直接購入することも検討している。
再現した字界図を基に小字ポリゴンを作成するデジタル化作業においては、初年度に続き外部への業務委託を活用する予定である。初年度に行なった東強清水地区の小字ポリゴン作成に係る業務委託に際しては、プログラマの方より空間分析に係る有意義な技術情報を得た。デジタル化作業に係る外部への業務委託を空間分析手法の検討プロセスに積極的に位置付けるものとする。
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| 備考 |
野澤俊太郎「近世佐渡の農村景観：生産および流通へのアプローチ」流通とランドスケープの人類学連続ウェビナー、京都大学東南アジア地域研究研究所、2021年3月23日
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