本研究は、デジタル地図による史的農村景観の再現手法を検討するとともに、土地利用等に係る今日的課題を踏まえた空間分析のあり方を模索する試みである。事業期間中、新潟県佐渡市の小佐渡山地に位置する3つの隣接する集落(月布施、野浦、東強清水地区)を対象にして、御検地水帳(江戸時代の検地記録)の収集、土地利用の歴史に係る聞き取り調査、農地の現況調査等を実施した。収集資料等を基に、大きく分けて以下3つの作業および分析等を進めた。 (1)調査対象3地区のデジタル小字図(小字ポリゴン)を作成した。御検地水帳に含まれる空間情報は小字地名のみであるのに対し、佐渡市のGIS化された地籍図は小字情報を含まない。そこで、同市役所よりご提供頂いた小字情報を含む各種土地関連データを基に、地理情報システム(本研究ではQGIS)を用いて全小字の面データを作成した。 (2)調査対象3地区の御検地水帳を翻刻して、同資料に含まれる全ての耕地データを小字単位で再整理した。 (3)QGISを用いて(2)で作成されたデータセットをデジタル小字図に搭載し、とりわけ田畑の等級に着目した分析を試みた。 地区によって多少ばらつきはあるものの、GIS化された全小字の約75%が御検地水帳データにおいて同定されることから、近世期農村景観の再現という目標は一先ず達成されたと言うことができる。他方、(3)の分析は、GIS化された古い土地利用データが有する今日の多様なデータとの比較可能性、さらには通時的分析可能性を活かすところまでは必ずしも至らなかった。この点は今後の課題になってくると思われる。 以上の他、本研究の実施は、思わぬかたちで研究代表者が景観に係る研究を進める文化人類学者や地域研究者等との異分野融合研究に参画するきっかけを生み出した。引き続き、同研究を進める所存である。
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