本研究は、瀬戸内海沿岸における海際の祭りを対象とし、文化的空間の実態と形成メカニズムを地域との関係性から考察し、文化的空間の本質的価値や継承する上での課題と保護施策のあり方を考察することを目的とする。 当該年度は、文化的空間を伴う祭りの形成メカニズムに関し、徳島県・香川県・愛媛県の瀬戸内海に面した29市町の無形民俗文化財等の祭りについて、国・県・市町の文化財部局等の公開データおよび報告書類、一部ヒアリングにより祭りの種類と文化的空間の空間タイプ等の関係について調査を行った。その結果、抽出された祭りは172件となり、祭りを20種に分類した結果、3県とも「獅子舞」「踊り・風流」が4割から約半数程度を占めており、徳島県から西に愛媛県へいくほど「獅子舞」の割合が減少し「踊り・風流」の増加がみられるなど、地域的な分布特性がみられた。 一方、文化的空間タイプを12タイプに分類した結果、最も多い「神社境内」は、徳島県から西に愛媛県へいくほど割合が減少し、反対に愛媛県では「特定の場所なし」が増加しており、祭りの種類によっては特定の空間を必要とせず、祭りの所作や型のみが継承されている事例などの継承課題もみられた。また、香川県・愛媛県では砂浜や海上、集会所広場や小学校グラウンドなどのオープンスペースで展開される踊りの事例が多くみられた反面、徳島県では街路空間などで展開される練りなどの行列の割合がやや高くなった。 これらのことから、神社境内、あるいは海岸部を含む神社境内以外のオープンスペースの文化的空間の成立には、祭りの種類が影響しており、祭りの種類に応じて文化的空間の本質的価値を明確化した保護の必要性が示唆された。
|