研究課題/領域番号 |
20K15549
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
原田 芳樹 中央大学, 理工学部, 助教 (70866459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 屋上菜園 / 人工土壌 / 水利用効率 / 栄養塩利用効率 / 再生廃棄物 / グリーンインフラ / 生態系サービス / 都市計画 |
研究実績の概要 |
屋上菜園は持続可能な食料自給を目指すグリーンインフラであり、先進国の大都市から難民キャンプに至るまで、様々な形で実装が進んでいる。廃棄物をリサイクルして人工土壌を作り、雨水を活用して野菜を栽培することで、食料生産、雨水管理、廃棄物処理といった生態系サービスの融合が図られる。本研究は再生廃棄物を活用した人工土壌を開発し、屋上菜園システム全体の水・栄養利用効率を向上させた上で定量評価することを目的としている。
屋上菜園システムで使われる土壌の深さは30cm以下が殆どであることから、低い圧力帯ほど正確に素材の水分保持曲線を測定する環境を整えた。まずは5cmの長さに切断したステンレスパイプに試料を充填し、水で飽和させたのちに、20個積み上げて排水することで、0~10kPaにおける土壌水分量を0.5kPaごとに測定可能とした。更に、HYPROP2(METER社)を使用し1~100 kPaを測定可能とした。これらに加え、100~1500 kPa(永久しおれ点)はWP4C(METER社)で測定している。これらの手法の組み合わせにおいて、農地や公園からの採土サンプル、園芸に使われる有機素材(例:ピート、ココナッツ皮)、熱加工された軽石状の無機素材、等の測定を行い、測定が可能な充填密度帯も特定できた。 また、土壌の深さが20cmのポットを加工し、底面から、0cm(底面)、5cm、10cmの高さに排水口を設け、屋内でリーフレタスを育成する実験を行った。この際、都内の降水量を参考にした給水に対する排水を測定した。当初は自動給水を使用した複雑なシミ上げ機構を想定していたが、このように底部で強制的に保水することで、土壌のシミ上げ効率と保水率の関係をより簡単に調べることができただけでなく、屋上菜園システムを始めとする実際の緑地の施工に直結したデータを得ることができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
素材の水分保持曲線を測定するための環境が整った事と、シミ上げ特性を利用した作物育成実験の方法を試すことができた点では、初年度の計画よりも進捗があったと考えられる。一方で、当初計画していた下水汚泥サンプルの利用と、屋上空間での実験は、コロナ感染拡大の影響で行動制限や関係者業務の遅延及び中止が相次いだため、中止を余儀なくされた。また都内で排出される食品残渣を堆肥化した商品に関しては、調査の結果、1つしか事例がないことが分かった。当該商品を購入してリーフレタスを育成するテストを行ったが、まだ微生物による分解の速度が速い未熟な堆肥であったため、大量のガスが発生し、発芽も見られなかったため実験を中断した。考えられる要因としては、この商品は学校給食の残渣を堆肥化したものであり、学校給食がコロナ感染拡大の影響で一旦中止されたあと、再開直後に製造された点があげられる。従って製造サイクルが安定すると推察される時期に、再実験を通してこの商品が実験に使用できるか確認する。このような状況の下、屋上菜園の人工土壌に使用する他の再生廃棄物に関して、特に水・栄養塩利用効率向上が期待されているものを中心に調査を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
都内で食物残渣を堆肥化している商品に関して、再度品質を確かめ、可能な場合は開発する人工土壌の素材として再度検討する。また、他の再生廃棄物を調査した結果、次年度以降は竹炭の利用を検討している。これは屋上菜園の人工土壌において水・栄養塩使用効率向上が期待されている素材の一つとしては木炭があるが、保水性の面では竹炭が上回る報告があるためである。また日本の山林保全において、竹林の増加が問題となっており、人工土壌に竹炭を使用し、竹林管理で伐採した竹の利用価値を上げることは、持続可能な山林保全と都市農業に貢献できる可能性がある。今後は水分保持曲線の測定を通して、竹炭を実験に使用するか検討を進める。選定した素材を様々な比率でブレンドした上で、作物が容易に使用できる土壌水量(RAW: Readily Available Water)を10~100kPaで測定する。そして、RAWを最大にするブレンドと、それに匹敵するブレンドを比較するために、実際に作物を育成する。具体的には、屋内と屋外でポットを用いた実験を行い、リーフレタスを育てることで、作物の水・栄養塩使用効率を定量的に評価する。
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