研究課題/領域番号 |
20K15550
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
張 平星 東京農業大学, 地域環境科学部, 助教 (40846383)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 庭園 / 火山岩 / 石材 / 帯磁率 / 採石場 / 石造物 / 石の文化 / GIS |
研究実績の概要 |
日本庭園の火山岩を把握するための基礎作業として、まず文献と先行研究の整理を行った。全国の石材調査の成果をまとめた「本邦産建築石材」「日本産石材精義」、全国の庭園実測結果をまとめた「日本庭園史大系」35巻をはじめとする庭園関係の文献、各地の庭園調査修復報告書、造園石材に関する先行研究を収集し、火山岩を利用した庭園の事例、造園石材の中の火山岩の種類と用途に関する情報を抽出している。 次に、産地が異なるが外見から判別しにくい火山岩(例:数種類の六方石)や、外見が類似するが火山岩でない石材(例:斑糲岩の筑波石と安山岩の小松石)を識別するために、携帯型デジタル帯磁率計KT-10を導入した。同時に、東京都内の肥後細川庭園と前田侯爵邸庭園の石材調査を実施し、石材の種類を判別した上で、火山岩の帯磁率データを蓄積した。 この2庭園は火山岩の主産地となる熊本と石川の大名が造営した庭園に関わらず、熊本と石川の火山岩の搬入を確認できなかった。しかし、関東の庭園によくみられる伊豆半島~神奈川海岸の安山岩(伊豆磯石、伊豆式根島石、六方石、真鶴石、根府川石、小松石)や富士山の玄武岩(黒ぼく石)が多く確認された。その中、伊豆半島~神奈川県海岸の石材は広域からみると同じ安山岩であるが、形成時代が異なり、海水の侵蝕の痕跡が明らかな海石と「叩き」加工が施された山石など、造園石材として細かく使い分けられ、複数の名称が存在する。その実態を把握するために、東京都内の歴史のある石材店の聞き取り調査、真鶴海岸の安山岩採石場跡および小松石の採石場の調査を実施した。 なお、地域の造園石材として、長野県の安山岩・志賀石の採石場調査を行い、滋賀県の安土城の石垣に多用された湖東流紋岩の現地調査および坂本穴太積みの名工・粟田純徳氏の聞き取り調査を実施し、現場の技術者が持つ石材の認識や異なる石材を扱う時の経験について情報収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年COVID-19感染拡大して以来、本来予定していた石川県、福井県、兵庫県、熊本県の現地調査を断念せざるをえない状況になり、進捗状況がやや遅れている。しかし感染状況がやや収束していた2020年9月から12月、2021年3月に関東圏と関西圏の現地調査を一部実施でき、また日本造園学会や文化地質研究会での発表ができ、造園学と地質学の専門家との情報交換ができた。
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今後の研究の推進方策 |
日本庭園の火山岩に関する文献と先行研究の情報は膨大であり、2021年度はその整理と補完を進める。なお、造園石材としての火山岩の名称に混乱が多く、石材に詳しい職人の聞き取り調査を実施しながら、造園石材の中の火山岩の名称を統一するためにリスト化を行う。それと同時に、関東圏内の他の庭園の石材調査を行い、関東圏の火山岩文化を深掘りする。なお、関東圏外の調査準備を整え、COVID-19の感染状況が収束している期間中、石川県・福井県・兵庫県・熊本県などの庭園調査および採石場調査を行い、データと情報を蓄積していく。研究成果は日本造園学会、日本庭園学会、文化地質研究会等で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、COVID-19の感染拡大により、予定していた現地調査の大半は実施できなかったため、次年度使用額が生じた。 2021年度は、2020年度の実施できない現地調査を追加実施し、関東圏・石川県・福井県・兵庫県・熊本県などの庭園の石材調査および採石場調査で発生する旅費と石材サンプルの郵送料として使用する。なお、追加して実施した現地調査から得られた研究成果を、日本造園学会、日本庭園学会、文化地質学会等の学会で公表するために、学会参加費・発表登録料・旅費として使用する。
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