研究課題
本研究は、樹木に吸われやすい放射性セシウムが樹幹流により土壌深部へ供給されること、土壌深部に存在するこれら放射性セシウムが樹木に吸収されることを明らかにする。これらから、材の放射性セシウム濃度変化は、樹幹流による放射性セシウム供給が引き起こしていることを解明する。今年度は、福島県川内村の材の放射性セシウム濃度の低下傾向が緩やかなサイト(緩慢サイト)と明瞭なサイト(明瞭サイト)において、各サイト5本のスギを対象に、東西南北4方位の根元周りの深さ25 cmまでの細根量の調査を行った。その結果、細根量の東西南北方位による分布に特徴は見られなかったが、緩慢サイトでは、明瞭サイトに比べ細根量が多かった。また、両サイトに設置した林内雨調査プロットにおいて、月に1度の頻度で樹幹流と樹冠通過雨の放射性セシウム供給量を調査した。その結果、2020年8月から2021年8月までの1年間に樹幹流により供給された放射性セシウム量は、緩慢サイトで143 Bq/m2、明瞭サイトで83 Bq/m2であった。このことは、緩慢サイトの方が樹幹流により放射性セシウムがより多く根圏に供給されることを示していた。さらに、両サイトの特定の個体を対象に、ブリリアントブルー水溶液(色水)を月に一度の頻度で樹幹に噴霧し、樹木根圏での土壌断面調査を行うことにより、樹幹流の土壌深部への浸透過程を調査した。本調査により、樹幹流が流下する土壌では深さ20 cm辺りまで色水が供給されていることが明らかになった。これらの結果は、樹幹流による根圏深部への放射性セシウムの供給が多く、その放射性セシウムを吸収できる細根が多いスギ林では、材への放射性セシウム吸収量が多くなる可能性を示唆していた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画した土壌調査と吸収根調査を、おおむね予定通り実施できている。
申請者らが開発したセシウム同位体比法を活用し、材と土壌の放射性セシウムと安定同位体セシウム濃度の関係から、樹木による土壌中の放射性セシウム吸収箇所の特定を行う。これにより、樹幹流により供給された放射性セシウムが、土壌から樹木に吸収され、材の濃度変化に影響していることを明らかにする。
国際学会の現地開催等が中止になったため、繰越金が生じた。次年度予算は、論文のオープンアクセス費等で利用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) 備考 (2件)
地球化学
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https://fukushima.jaea.go.jp/QA/q32d.html
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