研究実績の概要 |
近年、DNA解析技術の発展に伴って、植物の組織内に無病徴で定着する内生菌が植物の根にも普遍的に存在することが知られている。このような根部内生菌の主要な系統の一部は子実体の形成が確認されておらず、生殖および分散生態が明らかになっていない。最近、植物の根から子実体を発生させるHymenoscyphus monotropaeの近縁種が日本国内に広く存在することが見出された。本研究ではHymenoscyphus sp.(以下、本菌)をモデルとして根部内生菌の分散生態に関する知見を深めることを目的とした。 本菌の子実体発生時期を明確にするため、茨城県つくば市の発生地において根の断片を収集し、プラスチックのネットに入れて発生地に埋設し、4週間ごとに掘り出して発生数を確認した。子実体は10月に初めて確認され、12月にピークとなったのち4月には消失し、低温条件下で本菌の子実体形成が誘導されるという観察結果と一致した。昨年度までに開発したSSRマーカーを用い、国内11地点で収集した580菌株を集団遺伝学的な解析に供した。有意な集団遺伝構造が検出されたほか、集団間の地理的な距離が大きいほど遺伝的な距離が大きく(Mantel検定, p<0.01)、分散の制限が本菌の集団遺伝構造を形成していると考えられた。先行研究において子実体および胞子のサイズの類似した地上生の近縁種では日本国内のスケールで集団構造が見出されていないことは今回の結果と対照的であり、本菌が地上生の近縁種と異なる胞子分散の様式や分散能力を持つことが示唆された。
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