褐色腐朽菌は針葉樹の主要な分解生物であり、木造建築物の腐朽被害および木質バイオマスの糖化技術への応用の観点から極めて重要な生物である。褐色腐朽菌は木材細胞壁の主成分であるセルロースを、非酵素的な酸化的分解反応により低分子化し、非晶性セルロース分解酵素により単糖にまで分解するという、二段階の反応で分解すると考えられてきた。しかし、本菌は他の糸状菌で知られる結晶性セルロース分解酵素を持たないことから、結晶性セルロースをどのように分解しているのか、その分解機構は明らかになっていない。近年、申請者らは褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeumにおいて網羅的遺伝子発現解析から、ファミリー9溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO9)、ファミリー14 LPMO(LPMO14)、エクスパンシン様タンパク質の3種類の結晶性セルロース分解への関与が予想されるタンパク質の遺伝子が、木質基質により顕著に発現増加することを見いだした。本研究では、これら3種類のタンパク質の機能解析を行い、その褐色腐朽菌における結晶性セルロース分解への関与を明らかにすることを目指して実験を行った。昨年度までの研究から、これらの3種類のタンパク質の遺伝子を酵母菌Pichia pastorisに導入し、組換えタンパク質として発現させることができ、また、エクスパンシン様タンパク質に関しては、糖質結合能の解析を進めることができた。本年度は、昨年度に十分な発現量の得られなかった、LPMO9およびLPMO14についても、条件検討の結果、十分な発現量を得ることができた。また、エクスパンシン様タンパク質については、糖質加水分解酵素との相乗作用および糖質結合能の調査を進め、新たな知見を得ることができた。今後、これら3種のタンパク質のより詳細な解析を行った上で、得られた知見を学術論文として発表する。
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