研究課題/領域番号 |
20K15571
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
神林 徹 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (30772024)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 塗装 / 木材保護塗料 / 気象劣化 / 耐候性 / 木材細胞壁 / 顕微ラマン分光法 |
研究実績の概要 |
塗装は木材に耐候性能を付与する手段の一つとして広く利用されているが、屋外で美観や性能を長期間維持するには定期的な塗替えが必要となる。一般に、塗装木材の耐候性能を向上させるには、塗料の塗布量や塗膜の光隠蔽度を増大させることなどが有効とされている。しかし、塗装性能を向上させるための手掛かりとなる塗装木材の気象劣化機構に関する知見は乏しい。そこで本研究では、塗膜/木材界面の劣化機構を解明するとともに、木材の塗装技術の効率化・高度化を図ることを目的とした。 前年度は、塗装木材の顕微ラマン分析を行うにあたり塗料と細胞壁の両成分を同時に測定可能な条件検討を行い、各種パラメーターを最適化した。本年度は、塗膜/木材界面での塗膜および細胞壁成分の気象劣化挙動を解析するため、塗装試験体に対してキセノンランプ法による促進耐候性試験を実施しラマン分析を行った。塗料は造膜形と含浸形を用意し、それぞれをスギ辺材のまさ目面に規定量を塗布し、耐候性試験に供した。その後、劣化した塗装試験体の塗膜/木材界面部分において、前年度に決定した測定条件をもとにラマンスペクトルを取得し成分マッピングを行い、塗料および細胞壁成分の分布を可視化した。その結果、造膜形塗装の場合は試験時間の経過に伴い深さに応じてリグニンが均一に減少するのに対し、含浸形塗装では表層付近に分布する細胞壁において表層側および細胞内腔側でリグニンが顕著に減少する様子が観察された。このことから、造膜形塗装と含浸形塗装では、塗膜/木材界面における劣化様式が細胞レベルで異なることが明らかになった。また、造膜形塗装と含浸形塗装における細胞壁の劣化挙動は、無塗装材に光照射のみ行った場合と光照射に人工雨水の噴霧を加えた場合の細胞壁の劣化挙動にそれぞれよく似ており、塗装木材においても水の存在が劣化挙動に大きく影響を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、塗装木材の塗膜/木材界面における気象劣化機構を解明するとともに、塗料成分の分布状態等が界面の安定化にどのように作用するのかを把握し、耐候性能向上に効果的な塗装条件を見出すことを達成目標としている。本年度は、含浸形塗装と造膜形塗装における木材の劣化様式が細胞レベルで異なること、水の存在が塗装木材の劣化挙動に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。このように、研究は当初の計画通り順調に進行しているため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、通常条件で塗装した木材について促進耐候性試験機を用いて長時間の試験を実施し、顕微鏡・顕微分光法により塗料成分および細胞壁成分の劣化挙動を明らかにする。また、基材の表面粗さを調整した塗装木材の耐候性試験を行い、耐候性能向上に効果的な基材表面性状を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度から延期となっていた学会が開催され参加したがオンライン形式のため旅費が不要となったこと、共用機器が一時使用停止となったこと等により次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金は当初の予定通り、学会参加費や旅費、人件費、消耗品費、実験機器使用料、論文投稿料等に使用する。なお、次年度から機器利用料の増額や施設使用料の加算など想定外の費用が発生するため、実験機器使用料の増額分を次年度使用額から支出する。
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