塗装は木材の耐候化処理法の一つとして古くから利用されてきた。しかし、屋外で美観や性能を長期間維持するには定期的なメンテナンスが必要であり、長寿命化に向けた技術開発が求められている。本研究では、木材の塗装技術の効率化・高度化に向け、塗膜/木材界面における劣化機構を解明するとともに、耐候性能向上に効果的な塗装条件を明らかにすることを目的とした。 最終年度では、木材保護塗料で塗装した木材の劣化挙動を解析するため、促進耐候性試験に供した試験体の断面を顕微ラマン分光法により測定した。その結果、造膜形塗装では塗膜が劣化せずとも塗膜/木材界面ではリグニンが劣化すること、塗料が充填されていない細胞壁では劣化が顕著であること、含浸形塗装材は無塗装材と類似した劣化挙動をとる可能性があることが示唆された。また、塗装性能向上に効果的な基材表面性状を探索し、基材表面の粗面化処理が性能向上に有効であることを確認した。 研究期間全体では、促進耐候性試験により気象劣化させた塗装木材の表層部に対して顕微ラマン分光法によるマッピング分析を行い、塗膜/木材界面における細胞壁成分の変化をマイクロスケールで可視化した他、造膜形塗装と含浸形塗装では塗膜/木材界面における劣化様式が細胞レベルで異なること、雨水の存在が細胞壁の劣化挙動に大きく影響を及ぼすことを明らかにした。また、基材表面を粗面化することで塗装性能が向上することが確認できた。これらは塗装木材の気象劣化機構の全容解明を進展させる成果であるとともに、木材塗装技術の更なる発展に資するものである。
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