前年度に実施した室内実験において、フジツボ類の海水溶存性着生誘起フェロモンについて、種特異性がないことが示唆されていた。この成果について論文にまとめ、国際誌に投稿した。また質量分析により、キプリス幼生を視覚的に誘引していると考えられるタテジマフジツボの蛍光タンパク質候補を絞り込むことに成功した。
サンゴの一種であるAcropora sp.1のプラヌラ幼生を対象に、捕食者に由来する化学物質のストレスが遺伝子発現と行動に与える影響を室内実験で評価した。具体的には、Acropora sp.1のプラヌラ幼生を、サンゴ類の代表的な捕食者であるオニヒトデAcanthaster cf. solarisの飼育水中に入れ、2時間インキュベーター内で静置させた後、遺伝子発現応答と遊泳量をコントロール実験区と比較した。その結果、プラヌラ幼生はオニヒトデの飼育水中では、コントロール海水中に比べて一定時間内の遊泳量が大幅に増加することが明らかになった。これはサンゴのプラヌラ幼生が着生後に被食を回避をするための行動で可能性がある。また遺伝子発現を調べたところ、オニヒトデの飼育水では多くの遺伝子の発現が抑制されていた。一方、少数の遺伝子は発現が上昇し、その中には感覚シグナル伝達や運動ニューロン機能、酸化ストレスに応答することが知られている遺伝子などが含まれていた。プラヌラ幼生は、捕食者の化学物質によるストレスを受けると、多くの遺伝子の発現を抑制してエネルギーを節約する一方で、ストレス耐性や運動性、感覚受容に関わる最小限の遺伝子の発現を上昇させることで、被食回避行動をとっている可能性が考えられた。本成果はすでに論文原稿としてまとめてあり、近日中に投稿予定である。
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