研究課題/領域番号 |
20K15586
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
リュウ キン 滋賀県立大学, 環境科学部, 研究員 (10843360)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 酸性化 / 動物プランクトン / カイアシ類 / 遊泳速度 / 生存率 / 成長時間 / 生活史特性 / 湖沼 |
研究実績の概要 |
琵琶湖北湖中央部日本水資源機構観測塔付近において、水深30 mから、ノルパックプランクトンネット(口径45 cm、目合い0.2 mm)の鉛直曳きにて、動物プランクトンを採取し、直ちに実験室に持ち帰った。採取した動物プランクトン試料から、カイアシ類Eodiaptomus japonicusの成体雌をソートした。これらの個体を用いて、各pH条件(pH5.4、6、7、8)での遊泳速度を測定し、呼吸速度との関係を調べた。これらの実験に加え、異なるpH条件におけるE. japonicusの生活史特性を調べた。まず、前述の方法で採取した動物プランクトン試料から、E. japonicusの抱卵雌をソートし、ストックカルチャーを作成した;十分な餌条件、20度、12L:12Dで飼育した。実験には、ストックカルチャーで3世代目の雌から生まれたN1幼生を用いた。12時間以内に生まれたN1幼生を28-30個体について、それぞれpH6、7、8に調整した飼育水を満した10-mLの培養プレートに移し、ストックカルチャーと同様な餌と温度条件で飼育した。各成長段階、頭胸長および生死を記録し、各成長段階の体重と成長時間より体成長率を求めた。その結果、E. japonicusの遊泳速度は、pH低下に伴って著しく低下し、呼吸速度とは有意な相関関係が見られた。このことから、酸性条件におけるカイアシ類の遊泳行動の不活発化に伴うエネルギーコストの減少は、それらの代謝速度低下の主な原因と分かる。成長時間、体成長率および頭胸長は、いずれのpH条件においてもほとんど変わらなかったが、成体までの生存率は、pH8では66%だったのに対して、pH7とpH6では著しく低下し、いずれも20%程度だった;ほとんどの個体はノープリウス期で死亡した。以上のことから、湖水の酸性化がカイアシ類の個体群増殖に強い負の影響を与える可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、本研究の2年目である。令和3年度は、まず琵琶湖に周年優占する動物プランクトン、いわゆるカイアシ類Eodiaptomus japonicusについて、異なるpH条件におけるそれらの遊泳速度を測定した。それによって、酸性条件におけるカイアシ類の代謝速度低下の原因を明らかにした。次に、酸性条件がE. japonicusの生存率、成長時間や体サイズなどの生活史特性に与える影響を調べた。結局、酸性条件はカイアシ類の成長速度に強い影響を与えないようだったが、ノープリウス幼生の生存率に強い負の影響が得られた。今後、異なるpH条件におけるカイアシ類の卵生産速度を調べることで、湖沼の酸性化が動物プランクトンの個体群増殖に与える影響が評価できるようになる。以上のことにより、本研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、本研究の最終年度である。令和4年度は、まず酸性条件が動物プランクトンの再生産に与える影響を調べる。また、酸性条件に加えて、水温変化が動物プランクトンの生活史特性に及ぼす影響を明らかにする。令和4年度のコロナウイルスの収束状況また感染状況によって適切的に判断し、大気汚染による酸性湖に生息する動物プランクトンが酸性化に対する生理応答を調べる予定である。得られた研究成果によって総合的に検討し、酸性雨と温暖化の相互作用が湖沼生態系に与える影響を評価する。
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