最終年度は、酸性条件が動物プランクトンの個体群増殖に与える影響を調べた。琵琶湖北湖中央部日本水資源機構観測塔付近において、水深30 mから、ノルパックプランクトンネット(口径45 cm、目合い0.2 mm)の鉛直曳きにて、動物プランクトンを採取し、直ちに実験室に持ち帰った。採取した動物プランクトン試料から、カイアシ類Eodiaptomus japonicusの抱卵雌をソートし、ストックカルチャーを作成した;十分な餌条件、20度、12L:12Dで飼育した。実験には、ストックカルチャーで3世代目の雌雄1ペアを30 mLのビーカーに入れ、死亡するまで、産卵数や孵化率などを記録し、個体群増殖速度を求めた。酸性条件における本種の産卵速度低下の影響により、個体群増殖速度はpH低下に伴って低下した。本研究の結果によると、酸性条件における動物プランクトンの生理応答は種類によって異なったことが示唆され、湖沼の酸性化が動物プランクトンの個体群組成に影響を与え、それに伴う低次栄養段階生物の群集組成変化を介して高次栄養段階生物へ影響を及ぼす可能性がある。淡水産動物プランクトンは海産種に比べてより強い耐酸能力を用いる。酸性条件における成体の遊泳行動の不活発化による摂餌効率低下が予想される。栄養条件が最も動物プランクトンの生産効率に影響を与えると知られている。それらのことから、湖沼酸性化が動物プランクトンの個体群増殖に強い負の影響を与える。一方、酸性条件における動物プランクトンの高致死率は、低温条件より、高温条件の方が緩和されていた。動物プランクトンの致死酸性pHは水温に依存することが分かる。今後、水温変化に加えて、餌条件が動物プランクトンの酸性化耐性に与える影響を明らかにすることで、人為的な水域の酸性化と温暖化が湖沼の二次生産、ひいては水域生態系に与える影響を評価することができるようになる。
|