研究課題/領域番号 |
20K15596
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
松本 萌 東京海洋大学, 学術研究院, JSPS特別研究員 (70866441)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | M. salmoniphilum / ニジマス / 休眠期 / VBNC / 魚類抗酸菌症 |
研究実績の概要 |
養殖魚に発生する抗酸菌症は、日本の養殖業に多大な経済的被害をもたらす疾病の一つである。原因細菌であるMycobacterium spp.は、感染後すぐに症状を示す「活動期」と、宿主細胞にとどまり再燃の機会を待つ「休眠期」の2つの状態を持つ。昨年度の研究では、ニジマス抗酸菌症の原因細菌であるMycobacteroides salmoniphilumを用いて、培養液の温度変化がM. salmoniphilumの状態変化に及ぼす影響を明らかにした。その結果、5℃で培養したM. salmoniphilumは休眠することが示された。本年度は、M. salmoniphilumをニジマスに感染させ、低温で飼育した際の菌の状態と周囲の組織変化を明らかにすることで、休眠菌に対する魚類の免疫応答を調べた。 1×104CFU/mLのM. salmoniphilumをニジマスに接種し、5℃、15℃および20℃で30日間飼育を行った。14日後および28日後にニジマスより末梢血を採取し、活動期及び休眠期の菌溶解物に対する血清中の抗体価を測定した。さらに、脾臓および腎臓を採取し、組織学的変化と免疫関連遺伝子の発現を調べた。その結果、15℃および20℃で飼育したニジマスでは、活動期及び休眠期の菌溶解物に対する抗体価が上昇した一方で、5℃飼育のニジマスでは抗体価の上昇は見られなかった。また、15℃および20℃で飼育したニジマスの組織では、鞘組織の発達がみられ、免疫関連遺伝子の発現上昇がみられたが、5℃飼育ではいずれも顕著な変化が見られなかった。このことから、休眠菌を接種したニジマスでは免疫応答が誘導されない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度実施できなかった感染実験を遂行し、さらに、当初の予定通り、UPLC-Q-TOFを用いたリピドーム解析を実施した。今後は、分析結果の解析方法を確立する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、低温培養下でM. salmoniphilumは休眠することが明らかとなり、さらにニジマスに接種後も、低温環境下で飼育することで、魚体内で休眠状態を誘導できることが明らかになっている。休眠状態の菌は、宿主に対する病原性を示さず、同時に休眠菌に対してニジマスは、免疫応答をほとんど誘導しない。 今後は、休眠菌に対して宿主が免疫応答を誘導しない原因を明らかにするため、最も顕著な差が現れた細胞壁脂質層の組成の違いに焦点を当て、宿主の免疫応答の違いを調べる。in vitro培養条件下での活動菌、休眠菌の脂質組成をUPLC-Q-TOFを用いたリピドーム解析に供し、2つの状態間で差がある脂質について明らかにする。これらを明らかにしたのち、差がある脂質に対する免疫応答(サイトカイン産生および肉芽腫形成)について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費研究の実施に伴う抗酸菌症の原因細菌のサンプリングが、新型コロナ蔓延の影響により次年度に延期されたため。
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