研究課題/領域番号 |
20K15597
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
萩尾 華子 名古屋大学, 高等研究院(農), 特任助教 (80848309)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視覚 / 魚 / 神経回路 / ニューロン |
研究実績の概要 |
魚の間脳や大脳の視覚処理と大脳内高次視覚回路はまだ解明されておらず、なぜ魚は進化の過程で視覚路が2つから1つになったのかに関しても全くわかっていない。そこで本課題は、視覚路が2つであるゼブラフィッシュと、1つだけのマハゼなどの大脳内高次視覚回路を含む脳内視覚回路の全貌を解明するとともに、視覚中枢のニューロン活動をリアルタイムでイメージングし、視覚機能を解明することを目的としている。 漁業対象魚のマハゼの研究では、視野の位置情報を保持したまま網膜から中脳を経て間脳へと視覚が送られる、即ち空間的位置の把握に重要な「網膜部位対応性」が存在することを明らかにした(Hagio H et al., 2021.JCN.)。これは哺乳類と共通した特徴であり、その点でも重要な研究成果となった。視覚路が1つである他の魚種の視覚回路も解明して論文執筆中で、大脳内視覚回路も明らかになりつつある。 フランスとの共同研究により、ゼブラフィッシュの間脳視覚性ニューロンに発現する遺伝子を特定して共同筆頭著者論文として発表したところ(Bloch S, Hagio H et al., 2020.eLife)、魚類神経系研究者からの大きな反響が得られた。成魚と同等の視覚回路をもつ仔魚を用いてニューロン活動をイメージングすることが重要なため、間脳中継核にGFPを発現させた遺伝子改変ゼブラフィッシュを用いて、間脳から大脳への投射形成過程を観察した。その結果、投射形成時期を突き止めた。 強いニューロン応答を誘発できる視覚刺激を反映した餌や擬餌開発による水産業への貢献を目指すためには、遺伝子改変が困難な漁業対象魚にも適用可能な視覚実験系の確立が必要である。魚に餌刺激を与え、神経活動マーカーに対する抗体を用いた免疫組織化学を行い、応答ニューロンの特定に成功した。この手法は視覚刺激に応答するニューロンの特定にも適用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
漁業対象魚マハゼの研究の中で、空間的位置の把握に重要な「網膜部位対応性」の存在が示唆され、この解明は今後の魚の視覚研究において重要であると考え、注力して実験を行い、論文にまとめ公表した。マハゼなどの大脳内視覚回路を明らかとするための実験および得られた結果の解釈には困難な点もあるものの、執筆中の論文を仕上げて投稿する段階に来ており、順調に進んでいる。 フランスとの共同研究により、ゼブラフィッシュの間脳視覚性ニューロンに発現する遺伝子を特定して共同筆頭著者論文として発表することができた。そして、間脳中継核にGFPを発現させた遺伝子改変ゼブラフィッシュを用いて、間脳から大脳への投射形成過程を調べた。その結果、投射形成は受精後数週間目で既に開始し、約2カ月で成魚と同程度まで発達することを突き止めることができ、順調に進んでいる。さらに、間脳視覚ニューロンの機能解析に使用可能な系統の作出にも成功した。これまでの予備的実験により、単純な光刺激では応答しない可能性が考えられるので、与える視覚刺激について熟考する必要がある。 ニューロン活動のマーカーとなる物質に対する免疫組織化学を行い、餌刺激に対して応答するニューロンを特定することができた。すなわち、視覚刺激に応答するニューロンの特定にも適応できそうな手法が確立しつつあり、この件に関してもおおむね順調に進んでいる。また、ハゼの様子を観察する中で、視覚と摂餌行動の関連の重要性にも気づき、研究を開始した。 得られた研究成果は論文および学会やシンポジウムで発表しており、本研究の進捗状況は、当初の計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
間脳視覚ニューロンの機能解析に必要な系統の作出に成功し、ニューロン活動解析を行う準備も整った。今後は、視覚回路を構成するニューロンがどのような視覚刺激に応答するのかを明らかにするため、線や図形など様々な視覚刺激をモニター画面に投影し、魚に呈示する方法や装置を試行錯誤を重ねて作成および確立する予定である。与える視覚刺激の種類についても熟考の上で決定する。 そして現在はまだ調査していないより発生の早い時期のゼブラフィッシュにおいて、間脳から大脳への投射形成過程を観察して、ニューロン活動を測定するのに適した仔魚の時期を決定する。ニューロン活動の解析方法や得られた結果の解釈についても検討を重ねる。今後の計画通りに進むよう日々研究に励む。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、学会などがオンライン開催となり、国内外の旅費などの支出額が大幅に減ったため、次年度使用額が生じた。次年度の学会や共同研究先などの国内主張の旅費に使用する予定である。また、神経回路標識実験やニューロン活動イメージングなどに使用する試薬や消耗品を購入するために、次年度使用額および翌年度分として請求した助成金を使う。さらに、視覚実験装置の作成に必要な物品やニューロン活動のマーカーとなる物質に対する抗体なども購入する予定である。
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