魚の間脳や大脳の視覚処理、大脳内の高次視覚回路はまだ解明されておらず、なぜ魚は進化の過程で網膜から大脳にいたる視覚路が2つから1つになったのかについても全くわかっていない。そこで、視覚路が2つである魚と、1つだけの魚の大脳内高次視覚回路を含む脳内視覚回路の全貌を解明するとともに、視覚中枢のニューロン活動を可視化し、視覚機能を解明することを目的とした。 視覚路が1つのマハゼやメダカの大脳内視覚回路を含む視覚回路の全貌が明らかとなり、視野の位置情報が網膜から中脳視蓋、さらに間脳まで送られるという哺乳類と共通した特徴をもつことを魚類で初めて明らかにし論文で公表した。他にもこれまで知られていなかった哺乳類との共通点を5つ発見した。さらに、視覚路が1つの魚と2つの魚の大脳神経連絡には異なる点が見られ、成果の一部を招待総説に記載した。また、魚独自の視覚回路の進化を解明する上で重要な位置で出現したウナギは、複雑に絡み合った特殊な視覚路をもち、視覚路の進化に新しい説を提示すべく責任著者として執筆中である。遺伝子改変が可能な魚種の間脳視覚性ニューロンで特異的に発現する遺伝子を国際共同研究で特定した。これにより世界中で網膜や中脳視蓋にとどまっていた視覚機能解析をより高次な間脳まで進め、「なぜ進化の過程で視覚路が1つになったのか」を調べる道を開いた。その後、間脳視覚性ニューロンに蛍光タンパク質センサーを発現させた魚の作出に成功し、様々な視覚刺激に対する間脳ニューロンの応答を記録できた。さらに、ニューロン応答の強い視覚刺激を反映した餌や擬餌開発のためには、遺伝子改変が困難な漁業対象魚にも適用可能な視覚実験系の確立も必要である。神経活動マーカーに対する抗体を用いた免疫組織化学を行い、視覚刺激に応答した脳部位が明らかとなった。本研究により視覚刺激に対するニューロン応答検出法をほぼ確立することができた。
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