微細藻類は光合成により二酸化炭素を固定して油脂を多量に合成する。光合成的に生成する炭素源を油脂として蓄積するのではなく別の物質の合成に利用できれば、その生産性は飛躍的に向上すると思われる。本研究は、微細緑藻クラミドモナスの油脂「低」蓄積変異株を新たに育種し、油脂含有率低下の影響を代謝レベル・遺伝子レベルで解明することで、油脂「低」蓄積変異株の利用可能性を検証し、この生産戦略の学術的基盤を構築することを目的とした。油脂低蓄積変異株の育種については、まず抗生物質耐性カセットをゲノム中のランダムな部位に挿入した変異体ライブラリを作製した。一次スクリーニングとして、これを窒素欠乏条件で培養した後、細胞内の油滴を蛍光色素BODIPYで染色し、蛍光活性セルソーターでBODIPY蛍光の弱い細胞を分取した。目的とする細胞を濃縮するために培養と分取の工程を繰り返し、親株よりもBODIPY蛍光の弱い細胞集団を獲得した。二次スクリーニングとして、獲得した候補クローンを個別に培養し、窒素欠乏条件での全脂肪酸含有率を測定した。これにより、窒素欠乏条件における油脂含有率が低下した変異株LL-1を獲得することに成功した。LL-1における油脂蓄積の特徴として、窒素欠乏によって脂肪酸の合成が通常通り誘導される一方で、グリセリドの蓄積量増加が全く起きず、細胞内に油滴がほとんど形成されないことを見出した。LL-1のメタボローム解析を実施し、グリセリド蓄積が行われない細胞における細胞内代謝物量の変化を解明した。LL-1における遺伝子発現の変化をトランスクリプトーム解析によって明らかにし、またLL-1において抗生物質耐性カセットが挿入された遺伝子も特定していることから、今後微細緑藻のグリセリド合成誘導に寄与する分子メカニズムを明らかにすることも期待できる。
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