ソゾ属の海藻は、特異な構造を有する含臭素トリテルペンポリエーテルであるチルシフェロールおよびその類縁体を産生する。チルシフェロール類の構造的特徴として、共通骨格である連続するABC環と様々な構造の側鎖部位を有することが挙げられる。本研究では立体配置が明確に決定されたチルシフェロール類縁体を用いて立体配置特異的な細胞増殖抑制効果を調べることにより、非特異的な活性を排除した真の生物活性を見出すことおよびその標的分子をはじめとした作用機構に関する知見を得ることを目的としている。立体配置が明確なチルシフェロール類縁体のP388細胞における細胞増殖抑制効果を検証したところ、ABC環の絶対立体配置が活性発現に極めて重要であることを見出した。また、側鎖部位の構造も活性に影響を与えることが示唆された。さらに、HeLa細胞やHT-29細胞を用いた増殖抑制試験の結果、これらの細胞では立体配置特異的な活性は認められなかったことから、チルシフェロール類の細胞増殖抑制効果は細胞種特異的であることが示唆された。そこで、立体配置特異的な活性が認められたP388細胞抽出液からの標的分子精製を試みた。天然型およびその鏡像異性体のABC環構造を結合したビーズを用いて結合タンパク質を回収し、SDE-PAGEに供したのちに染色を行ったところ、双方のビーズに結合することが予想されるタンパク質の複数のバンドが得られた。これらの結果は、チルシフェロール類縁体が非特異的に様々なタンパク質に作用することを示唆した。今後ビーズに結合させる分子の構造をさらに最適化し、特異的な標的分子を見出す必要がある。さらに、天然型とその鏡像異性体を添加した際の細胞における遺伝子発現をRNA-seqにより経時的かつ網羅的に調べたところ、複数の遺伝子発現変動が認められた。
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