研究課題
近年漁獲量が極めて低水準となっているウナギは、その資源を適切に維持することが喫緊の課題となっている。しかし、その複雑な回遊生態やそれにともなう生理的変化や行動特性の変化はあまり明らかになっていない。そこで本申請では、ウナギの脳に発現するナトリウム利尿ペプチドの中枢機能の同定に挑戦した。ナトリウム利尿ペプチドは末梢器官においては体液調節作用を示す一方、その中枢機能は未知である。本研究により,ナトリウム利尿ペプチドの一種であるCNPはウナギの脳に広範囲に発現することが明らかになった。本研究で着目しているCNP3は間脳-下垂体系,特に下垂体の中では淡水適応に関わる前葉のプロラクチン発現細胞に強く発現しており,浸透圧調節に関わるホルモンとして分泌されていることが示唆された。そこで,下垂体CNP3の浸透圧調節における役割を調べるため,淡水で飼育しているウナギを海水に移行して下垂体CNP3の発現変動を調べたところ,海水移行によってCNP3の発現がプロラクチンと同期して減少することがわかった。すなわち,下垂体CNP3はプロラクチンと同様に淡水適応に関わるホルモンなのかもしれない。下垂体CNP3を含めたナトリウム利尿ペプチドはその名が示す通りナトリウム代謝に関わるので,環境水中のナトリウムイオンの濃度を変えてウナギを飼育したが,CNP3の発現量に対する影響は見出せなかった。一方で驚くべきことに,環境水中のクロライドイオンに応答して下垂体CNP3の発現量が変動した。このように,ウナギを用いた本研究によってナトリウム利尿ペプチドの新たな機能を提唱した。本成果は,国際誌(Molecular and Cellular Endocrinology)に発表した。
3: やや遅れている
昨年度は,在宅勤務が多数発生し,実験が滞ったことから進捗状況としてはやや遅れている。昨年度はウナギCNPファミリーの脳内の発現動態解析を行った。さらにCNP4aおよびCNP4bの脳におけるmRNA局在解析もほぼ終了し,両者が異なる局在を有することが明らかにされた。ウナギCNP4b は,延髄を中心に発現しており,特にコリン作動性ニューロンに多くの発現が見られた。これは,自律神経系におけるCNP4bの役割を示すものであり,液性のホルモンとして認知されてきたナトリウム利尿ペプチドの常識を覆すかもしれない。この成果は現在論文にまとめており,今年度中にオープンアクセス誌に投稿予定である。一方で,CNPファミリーの受容体結合解析は共同研究者との連携が停滞しているため,遅れている。その中で,我々は本研究において発見したウナギCNP4bの抗体作製に成功したことから,受容体結合解析や免疫組織科学などの解析によりその機能解明に結びつくのではないかと期待される。
今後は,ウナギ以外の近縁な海産魚類(カライワシ,アナゴ)のレプトセファルスを用いた研究も含め,比較生物学的にナトリウム利尿ペプチドの浸透圧調節における役割を検討していく予定である。その中で,トランスクリプトーム解析により他のホルモン遺伝子との関連も調べていく予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Molecular and Cellular Endocrinology
巻: 507 ページ: 110780~110780
10.1016/j.mce.2020.110780